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ありえねぇ !! 5話目 前編

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2.




同日10時半。


「いいミカド? 引越し業者が帰るまで、絶対ここから出ちゃ駄目だよ?」


あれから三十分後、今からお仕事に出かける幽に言われ、首なし幽霊はこくこく頭が無い首を根元から振り、彼が準備してくれた重厚な木製クローゼットの扉を開いた。
中の洋服は全部ダンボールに詰め込まれ、代わりに居間のソファーに敷き詰められていた全てのクッションが、中で転がるミカドの為、丁度背もたれになるように押し込まれていた。

これなら万が一業者が勝手に扉を開ける事があっても、ミカド幽霊が見えない人達には、只のクッションが詰め込まれているだけとしか思えないだろう。

よいしょと体を中に滑り込ませて、ころりと転がる。
ふかふかとして気持ちの良い寝心地だ。ただ、角度は六十度ぐらいなので、例えるのなら新幹線か飛行機の、リクライニングシートのような感覚だ。

『幽さん、ありがとうございます』
ぺこぺこと首を上下に振りつつ、PDAに入力した文字を見せる。
なのに彼は、にこっと口元にちょっぴり笑みを浮かべ、背後に隠し持っていた物を勢い良く広げた。

「でも、もしかしてミカドを見る事ができる人がいるかもしれないから」
(うわっぷ!!)

幽がいきなり、毛布でミカドの全身をすっぽり覆うように、被せてきやがった。

『幽さん、そんな事しなくたって大丈夫ですってば!!』

PDAを振り回して応戦するが、ぎゅうぎゅうとミカドを包む彼の手に、一切手加減はない。
苦しすぎる。

『例え私が見えたって、皆驚いて逃げていきますってば!!』
「そんな事判らないだろ? 俺みたいにお前を拾う奴、いるかもしれないし」
『私、首無いんですよ!? 幽さんみたいのが、稀ですってば!?』
「でも、兄貴の高校時代の同級生に、首なしの幽霊と一緒に住んでいる人が……」
『え♪? 今なんて?♪』

毛布に包まれててあまり良く聞き取れなかったが、首なしの幽霊という単語ははっきり判った。
でも、もぞもぞと首を出しPDAを突きつけた途端。

「……何でもない。兎に角ミカドは隠れるの。いい、人目についたら俺、絶対許さないからね……」

無表情に逆戻りした幽が、もっと力任せに毛布を被せ、ぎゅうぎゅうとクッションの海にミカドを沈めだす。
前々から思っていたのだが、どうやらこの人は、人一倍お気に入りを他人に見せたくないタイプらしい。
本当に極稀だが、幽が微笑んでくれると、ミカドも凄く嬉しくなる。
とっくに幽霊な自分が言える台詞ではないが、この人の無表情な顔も人形のようで綺麗だけど、血が通っていないようで嫌なのだ。
勿論そんな事、本人には絶対言えないけれど。


ミカド幽霊は、幽を安心させる為、首だけちょこんと毛布から出すと、影で♪マークを沢山飛ばしながらこくこく頷き、改めてPDAを差し向けた。


『判ってます♪』
「寝てるうちに引越しなんて終わるし」
『はい♪ ついたらお片づけ頑張りますね♪』


さっきまで暴れていたミカドの機嫌が直ったのは、床をゴロゴロ転がる彼を不憫に思ってくれたのか、幽が直ぐに不動産屋の営業担当者に電話を入れてくれたからだ。
短い交渉の結果、割り増し料金追加で、荷物を詰め込む作業から、引越し会社の人間がやってくれる事になったのだ。


彼らが来るのは11時からなので、ミカドはこうして皆に絶対に姿を見られないよう隠れつつ、静かに新居に運ばれるのを待つしかできない。
ちなみに独尊丸は、ミカドが今入ったクローゼットの真横に、ちょこんと置かれたペットの持ち運び用の簡易ハウスの中にいて、現状『出せ出せ』と言わんばかりにガタガタ暴れている。

「今日俺が帰るのって、多分深夜になる。夕飯はいらないから、ミカドも程々でちゃんと休むんだよ?」

真っ黒い手袋を嵌めた手で、ぽんぽんとタオルケット越しに肩を優しく叩かれた。
その後、ぎいぃっと木が軋む音が鳴り、扉が静かに閉められる。
首なしミカド幽霊は、(行ってらっしゃい)と聞こえない声で囁くと、ゆるゆるとタオルケットを首の天辺から、すっぽりと引っかぶった。


暗い所の一人ぼっちはまだ怖いけど、寝てしまえば大丈夫。
起きたら片付けできっと忙しくなるだろうし、それまではお言葉に甘えさせて貰おう。
と思いつつも、貧乏性なので、こんな早くから惰眠を貪るのは気が引ける。
そんな事を悶々と考え込んでいる内に、ミカドはゆるゆると眠りの淵へとダイブした。



★☆★☆★


同日の正午ちょっと前。
静雄は帝人の首幽霊を少し寝かせた後、新羅とセルティの家に預けに行った。


「ようこそミカド君♪ セルティがお待ちかねだよ♪♪」


呼び鈴を鳴らした直後、文字通り弾丸のように飛び出てきた新羅は、仕事でもないのに白衣のまま、見えない筈のミカドに飛びついてきやがった。
つまり、静雄の胸に向ってだ。

「うぜぇ!!」

怒声と同時に繰り出した踵落としで彼を床に沈めると同時に、今度は廊下の奥からタータンチェックの可愛いエプロンを纏ったセルティが、タタタと小走りでやってきた。

『良く来た静雄に帝人♪ 待ってたぞ♪♪』

セルティは嬉々として右手でPDAを突きつけ、何故か反対側の手で、プリントアウトされたカラフルな一枚の紙を見せびらかした。
何かのレシピらしい。

『今日私、運び屋の仕事が無いんだ。新羅もオフだし、久しぶりに凝ったお菓子でも作ろうかと思ったんだが、意外と難しくてな』
《……あ、アップルパイですか。パイ生地から作るのは、確かに面倒ですね♪……》

得意な話題に、静雄の腕の中で萎れていた帝人の首が、ゆっくりと顔を上げ、瞳もいきいきと輝きだす。
《冷凍のパイ生地シートとかを使えば簡単ですよ♪ 大きなスーパーでは五百円、業務用スーパーなら三百円ぐらいからありますから、最初はそういうのを使ってみるのも失敗がなくて楽ですよ♪ 何処まで作りかけたんですか?》
『一通り頑張ってみた。第一弾が今焼けた所だ♪』

誇らしげにPDAを突きつける彼女の背後は、煙で白く霞んでいる。
良く言えばとても香ばしい、ぶっちゃければ焦げ臭い匂いがした。
セルティが静雄の背を押し、はにかみながらダイニングテーブルへと導けば、その中央にはどどーんと、一ラウンドの黒々として枯れ木のように干からびたパイが、惨い姿で鎮座していた。

「凄いでしょセルティの作品♪ 愛の篭ったこのお菓子は、まるでガトーショコラのようだと思わないかい?」
どんな贔屓目だよ?
「どう見ても消し炭じゃねーかぁ!!」
『という訳で、今から私は、帝人に教わりつつ作り直すんだ。だから借りていくぞ♪ お前達は出来上がるまで、それを昼ごはん代わりに消費してくれ♪ じゃあな♪』

ひょいっと帝人の首幽霊が、セルティの腕の中に納まり、掻っ攫われていく。
代わりにぽいっと渡されたのは、泡立ちもしない生クリームが入った小鉢とスプーンだ。
この消し炭に、つけて食べろというらしい。
一体どういう拷問だぁ?

「それ、セルティが泡だて器で三十分頑張ってたんだけど、何故かとろとろのままで。クリームが不良品だったのかな?」
真顔でいう新羅が、本気で恐ろしい。