墓参り
「ミクは知らないのかもね。こういうところでは寂しがったらいけないんだよ。泣いてもいけない」
ぽつりと漏らされた言葉に、ミクは存外焦りを隠さずにマスターへ詰め寄った。泣いたらいけない? 悲しんでもいけない? でも、マスターは今さっき、絶対に悲しんでいたのに。
ワタシにはよくわからないけれど、この大きな石の前で、悲しんでいたのに。
ミクが首を傾げる。マスターはそれにあやすような笑みを浮かべ、彼女の頭の上へと手を置いた。軽く撫でる。
「ミク、あのね──」
*
……セミの音。それを切り裂くように、柔らかなアルトの声が響き渡った。
「後、もう少しでマスターに会えるわよ! みんな、頑張りなさい」
「も、もう疲れたよ、めーちゃん……そろそろ休もうよ。この三日間、歩きっぱなしじゃないか」
それに続いて、音を上げるような声音が響き渡った。テノールの優しい声は、ミクの耳朶を優しく打つ。ミクは足元を見ていた視線を上げ、先を行く二人の影を見つめた。メイコに、カイト。ミクと同様、マスターに買われたボーカロイドだ。メイコは道中で買った一杯の花を、カイトは大きな荷物をそれぞれ手に持っている。
それからミクは隣を共に行くリンとレンを交互に見た。リンは若干苦しそうなものの、レンは全く疲労を顔に出していない。それがなんとなく心配で、彼女は二人に声をかけた。
「大丈夫、リンちゃんレンちゃん」
「だいじょーぶ、ミク姉……」
答えるリンの声は息も絶え絶えだった。ミクはそっと心配するような色を瞳に忍ばせ、リンの肩を軽く叩く。華奢な肩は、汗にじんわりと濡れていた。リンは額を伝ってきた汗を拭い、ミクを仰ぎ見る。
「ねえ、もうすぐ、もうすぐマスターに会えるんだよね」
問い掛ける声には僅かな焦りが混じっている。それと、若干の苛立ち。ミクが答えようとするのを遮り、レンがつまらなさそうに言葉を返す。
「もう少しだって、メイコ姉ちゃんも言ってるだろ。頑張れよ。いつもの元気はどこへ行ったわけ?」
「わ、わたしは何時だって元気だもん! 馬鹿、後でロードローラーで整地してやるうっ」
「はいはい。おれは先行くから。二人は後から来たら? じゃあね」