墓参り
「……大丈夫だよ、マスターだもん。嫌わないよ。リンちゃんがどんな格好をしていたって、きっと大丈夫」
「そうかな、だと良いのに」
「リンちゃんはマスターのこと、大好きなんだね」
色々と思い悩むリンの姿が微笑ましくて、ミクは握り締められた手のひらを自身からもゆるく握り返し、笑みを零す。するとリンは当然、とでもいうように胸を大きく張り、ひまわりが咲いたような、満面の笑みを浮かべた。弾んだ、鈴が転がるような涼やかな声で彼女は言葉を紡ぐ。
「うん。好き。大好きだよ。世界で一番、……好きっ」
「そっか」
誇らしげに紡がれた言葉に、何故かミクは胸の奥が痛くなるのを感じた。
彼女の胸、というよりは心。そこにミクは穴が開いているように感じる。何をしても、何を感じても満たされない穴。それは何年も前から、そう、ずっと前から彼女の胸の中にぽつりと穿っている。
ミクは片方の手をそっと胸に当て、小さな息を吐いた。
リンのことを、何故か彼女は羨ましく感じた。
それからミクとリンは疲労をあまり感じないようにと、ゆっくりと歩き、とうとうマスターの前までやってきた。先に行っていたカイトとメイコが、二人の姿を見とめ、微笑を浮かべる。二人とマスターから少し離れた所に、レンが立っていた。レンは、ミクとリン、次いでカイトとメイコ、そうしてマスターを順々に見て、わずかに震えた溜息を零す。
カイトはマスターの前に立つと、口唇の端に笑みを乗せ、優しく響く声で呟いた。
「お久しぶりです、マスター。少し汚れていますね。大丈夫です、きっと綺麗にしますから」
カイトがレンへと視線を送る。レンは嫌々カイトへと近寄ると、横に並んでマスターの前へと立つ。彼は震えた唇で、言葉を懸命に紡いだ。
「マスター、お久しぶり──」
レンの声が上擦る。メイコが苦笑を浮かべ、レンの肩を軽く叩いた。レンは顔を俯かせると、小さくしゃくりを繰り返す。カイトがレン、と宥めるように名前を呼ぶ。レンはゆるゆると首を振ると、カイトの服の裾を掴み、引っ張っていく。マスターから遠く離れた所で、レンはカイトから手を離すと、肩を震わせ始めた。カイトがそれを見て悲しげな表情を浮かべ、あやすように頭を撫でる。