墓参り
リンがそんな二人を見て、自身の顔をもくしゃくしゃにした。メイコが彼女の名前を呼ぶ。リンは目から溢れ出そうになる何かを懸命に押さえ込み、笑顔を浮かべてマスターの前へと立った。困ったように笑みを浮かべ、マスターへと手を伸ばす。優しく撫でるようにマスターを擦り、彼女は震えた声音で呟いた。
「お久しぶり、マスター! ねえねえ聞いて、マスター、マスターの曲、まだまだ、まーだっ評価されてるんだよ! 凄いでしょ、わたし、すっごく鼻が高いよー! あのね、俺にとってのボーカロイドの最高傑作はこれだ、なんて言われたりしてさっ。凄いでしょ、ねえ、凄いよね!」
返事は無い。それでも彼女は続ける。
「すごくすごく、嬉しいの! まだね、マスター、一杯、いーっぱい、聞かれてるんだよ、曲! 凄いでしょ、凄く凄く嬉しいよっ。えへ、えへ、へ、……え、へ、……へ……」
リンの笑い声から覇気が無くなる。 彼女はマスターを撫でる手を止め、その小さな身体を押し付けるようにマスターを抱きしめた。軽く洟をすする音が響く。メイコがリンの肩を撫でると、その音は一層強くなった。
「一杯、一杯……、聞いてもらえてるんだよ……」
掠れた声音で続け、リンは軽く頭を振った。無理に喜びを混じらせ、上擦った声で続ける。
「マスター、今日ね、会いにくるの、ずっと楽しみにしてたんだよ。今ってマスター、居るんでしょ? 居るんだよね。ここに。戻ってきてくれるって、聞いたもん。この季節のこの時期だけは、戻ってきてくれるって、聞いたもん……。ね、マスター、マスターのこと、大好きだよ。大好き、大好きっ、ずっと、ずうっと、大好き!」
最後は叫ぶように続け、彼女は身軽にマスターから身を離す。顔には笑顔、まなじりがわずかに赤くなっている。彼女は洟をもう一度だけ啜り、嬉しそうに笑った。それからカイトとレンの元へと向かい、二人の手を引くと、何処かへと向かってしまった。ミクはぼんやりとその姿を見ながら、マスターへと視線を移す。マスターは何も言わない。ただそこにあるだけだ。
セミの音が一層強く、ミクの身体に染み渡る。彼女がぼんやりとマスターを眺めていると、メイコが困ったような笑みを浮かべ、次いでマスターの前へと立った。リン同様マスターを優しく撫でて、嬉しそうに笑う。