墓参り
苦笑を零しながら呟かれた言葉にも、マスターは無言で返す。ただ、それを悲しいとは誰も思わない。レンがマスターへと近寄り、水をはったひしゃくを手に取ると、マスターへとかけた。それを見てリンが嬉しそうに笑い、ねえねえマスター、とカイトを押しのけて近づく。
押しのけられたカイトは多少驚きを隠せずに居るも、何故か微笑を浮かばせ、ミクの横へと移動をしてきた。リンが水で濡れたマスターを軽くつつき、レンがね、と言葉を発する。
「マスターに水をかけたい、マスターに水をかけさせてよ、おれがやりたい! ってずっと言ってたんだよー」
「や、やめろよ、リン!」
「子どもみたいだよねえ。レン、ぜんっぜん変わってないんだよ。去年と」
「い、いいだろ、別に! マスターに水をかけるのはおれがやりたいんだから! ……マスターだって、異論は無いだろ?」
レンの問いかけに、マスターは何も返さない。ほんの少しだけ、レンは表情に悲しみを宿らせたものの、次の瞬間にはそれを打ち消し、笑みを浮かべた。リンもつられるように笑みを浮かべ、マスターから指先を離す。その後メイコへと近づき、「わたし、お花やる!」と右手を上げた。花を抱えたメイコが呆気に取られたような表情を浮かべ、次いで微笑を浮かべる。マスターから少し離れた地面に花を下ろし、花を包んだ新聞紙を広げた。茎の部分をリンに切るように頼み、鋏を手渡す。リンは嬉しそうに微笑んだ後、早速作業に取り掛かり始めた。
レンは懸命にマスターへと水をかける。マスターはもう水が染み込む隙間が無いのか、かけた分の水をそのまま地面へと落とし、小さな水溜りを作った。カイトがそろそろ良いんじゃないかな、と小さく呟きレンへと近づいていく。レンはバケツに残った水をどうにかしてマスターへ掛け終わると、カイトにひしゃくとバケツを手渡した。それからマスターへと向き直り、笑う。
「喉、渇いていたよな。これで潤った、よね」
「……多分、マスターはレンに感謝していると思うよ」
言葉を紡がないマスターに変わって、カイトが控えめに言葉を発する。そうして、レンの頭を軽く叩いて優しい色で染めた表情を浮かべた。レンがこっくりと頷き、それからマスター、と小さな声音で名前を呼んだ。
「お久しぶりだよね。元気にしてた……、おれ、それだけが心配で……」