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NAMELESS OPERA

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 アレンが洞窟に辿り着いた頃、ローレシアでは突然の賓客に騒然となっていた。

 身元は間違いなく保証されたものであり、顔を知っている者も少なくなかった。
 だが、本人がここまで単身で来られるものと予想できた者は無く、サマルトリア国王がそれを許す事などまずありえないことだった。

 謁見のための大広間は、彼の入国の話題でざわめいていた。

 ローレシアの国王は、ムーンブルクからの使者に憑依した魔物から王子を庇い、瀕死の重傷を負わされていた。
 早い手当てと手厚い看護によって一命は取り留めたものの、これまで執務の殆どを病床のまま執り行うのが精一杯だった。
 その国王が病身を圧して、玉座に姿を現したことで、会話はいっそう熱を帯びた。


 やがて謁見室の扉が開かれ、話題となった当の彼が姿を見せた一瞬、広間は水を打ったように沈黙した。

 彼が着ているのでなければ、けして目に留まるものと思えない袖無しの深緑の法衣(チャジュアブル)は、正面をラーミアの紋章で染め抜いたありふれた物だった。
 金の輪で留められたウェストのベルトには細身の剣を帯び、背後に明るい柑橘色のマントが翻った。
 見事な金髪は無造作にヘッドバンドに押さえられ、その無骨な出で立ちが、白皙の面の優婉さをかえってひときわ際立たせているようだった。

 陶然とした、あるいは息を呑むような注視の中、颯爽とした足取りがローレシア王の眼前でひたと止められた。
 彼が立つだけで辺りに光が差すかのようだった。

 彼はすぐにマントを捌いて優雅に片膝をつき、国王に畏まった。

 鋭く睥睨するかのようなローレシア王の表情が、幼子を見るような柔和なものになる。

「遠路はるばる……大儀であったろう」

「何の礼もわきまえませず、このような形で御前にまかり出ましたご無礼、何卒お許し下さい」

 低く抑えられているにもかかわらず、よく通る声だった。

「良い。……そんなに畏まらず、……さ、面を上げよ」

 彼、サマルトリアの皇太子カインは顔を上げ、恐れ気のない澄んだ煌めく翠緑の瞳を向けた。

「よい目をしておる。大きくなったな。そなたがみえたと知れば、アレンも己の軽挙を悔やむであろうな」

「では、殿下は何処におわされるのですか」

「余の制止を振り切って跳び出しおっての。昨日サマルトリアからアレンが着いたとの連絡があった」

「そうでしたか……」
 カインはその言葉に半ば目を伏せた。
 長い金色の睫が影を落とし、毅然とした表情がひどく寂しいものになる。

 跳び出したとあっては、このローレシアに舞い戻る事は到底考えられないことだった。

「そなたも疲れているであろう。すぐに早鳩を飛ばせ、そなたの無事をサマルトリアに知らせようほどに、少し寛いで行かれるがよい」

「勿体無くも有り難き仰せなれど、このまま退出をお許しいただきたく存じます」

 頑なとも思える声音は、ローレシア王に別の響きを持って届いていた。


 カインが立ち去ったあとも、まだ夢心地のように見える廷臣も少なくなかった。

 だが、幾人かはサマルトリア王が、皇太子の旅立ちを許した理由を推し量らざるをえなかった。
 ローレシア国王にも、それが何たるか気付かない振りをすることすら困難に思えた。

 誰もが判っていたのは、皇太子の存在は今現在のサマルトリア王家にとって腫れ物に触るようなものであり、この先何があろうと、サマルトリア王が失うものは何も無いということであった。



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