Prayer*
「おいお前…いい加減にしろよ…」
シャワーを浴びて浴室から戻ると、
さっきまであれだけ子犬のようにキャンキャン啼き喚いていたカイが
ソファの背もたれに寄りかかったままの状態で、静かに寝息を立てている。
「人を叩き起こしておいて自分が寝オチとはいい度胸だな…」
何度目の溜息だろう。
こいつに関わってると、コレはもう染み付いた習慣みたいに、無意識にいくつも生まれてくる。
呆れ果てて呆然と立ち尽くしていると、カイの寝息をかき消すように、テーブルの上で携帯のバイブレーションが一定の間隔で暴れ出した。
カーテンを閉めきったままの、まだ薄暗い部屋の中心で、小さなサブディスプレイがぼんやりとした光を漂わせる。
着信を知らせるディスプレイには、『比企真孝』の文字。
「ったく…今日は騒々しい朝だな…」
小さく舌を鳴らして、人の気分を無視してテーブルで賑やかに踊る忌々しいそれを手にする。
「はい…」
『おはよう、ハルくん。カイくんは、もうそっちに行った?』
(…あんたの差し金か…)
もう溜息をつくことすら面倒に思えてきた。
「…ああ、この目覚まし故障してますね。
予定外の時間にひとしきり大騒ぎしたら、今度は電池切れで活動停止してます」
『ははは、まぁしばらくは寝かせておいて、今度はキミが起こしてあげてよ』
「なんなんすか…一体…」
『ハルくん、今日はカイくんとふたりでゆっくり休んでていいからね』
「は?今日は俺非番じゃ…」
いいかけた俺の言葉を遮るように、電話口の向こうの声が切り替わる。
『おう!ハルか?!』
それまでの穏やかな比企のその声とは対照的な梶山の声に、一瞬、携帯を耳元から引き離す。
「…そんな大声で話さなくても聴こえてますから、ボリューム落としてください…こっちはさっき起きたばっかで、まだあんたのテンションには付き合いきれない」
『若いクセに身体の順応は年寄りくさいな、お前』
「で、だから何の用なんですか、一体。どいつもこいつも」
『…お前、今日誕生日だろ?』