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Beast

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 元親は石田三成という少年の外見を聞いていた。だから、視界の端をいつかの銀色が通り掛かった時にすぐにそれとわかった。
 通りの向こうから歩いてくる少年は、武道を習っている元親や家康に比べれば、随分細い身体つきをしている。夕陽を浴びて銀糸の髪がちらりと光り、その下にある秀麗な顔立ちは、どちらかと言えば物静かな雰囲気を醸し出していて、どうも聞いた話とは一致しがたい。
 だが、元親がここしばらく放課後に家康の高校の傍から件の繁華街にかけて歩き回っていたのは、こんな偶然を待っていたからだ。だから、路地の端に立ったままためらわず声をかけた。
「よう。
 あんた、石田三成だろ?」
 呼びかけた先で、元親の立っていた場所を通り過ぎようとした少年――三成は、怪訝そうな顔でこちらを見た。鋭い眼がちらりと元親の顔と見慣れない制服を一瞥し、
「誰だ」
 短く誰何した。警戒心を丸出しにした三成を前に、元親は肩を竦めてみせた。
「俺ァ長曾我部元親ってんだが」
「……知らない名だ」
 興味がないと言いたげに、歩みを再開しようとした三成へ向けて、元親はもうひとつ付け足しだ。
「ちょっとお前さんに訊きたいことがあってなァ。――家康のことで」
 言い切った瞬間に、顕著な反応があった。
 ものすごい勢いで振り返った少年は、先程までの無関心な態度をかなぐり捨てて、元親を射殺さんといわんばかりに睨みつけた。

「私の前で奴の名前を口にするな」
 
 そして、並みの者なら恐怖を覚えるほどの、低く怨みの籠った声で告げた。
 さすがの元親も、予期しないほど唐突な悪意にひやりと背筋が冷えた。これでは友人たちが心配をするのも当然だ。元親もまた眼光を鋭くして、三成と至近距離から睨みあった。
「あんたと家康の間に何があったかは知らねえ。が、場合によっちゃあ俺は―――」
「奴の名を口にするなと言った!」
 瞬間、拳が飛んできた。
 咄嗟にかわしたが、昔からそれなりの悪さも行ってきた元親ですら、初めて会った相手にここまで突然の暴行を振うことはない。
 まるで狂犬だ。
 元親は予想以上にこじれそうな相手だと悟り、こんなことなら家康に詳しいことでも聞いておくんだったぜと内心で愚痴った。だが、家康が自分から話をしない相手について訊き出すわけにもいかない。今こうしている現状ですら、余計なお節介だとはわかっているのだ。まったく厄介な性分ではあった。
「だがよ、こりゃ放っておけねえよ、な!」
 気合と共に蹴りを放つ。やられたらやり返す、これも昔からの性分だ。
 細身に見えた少年は案外こんな荒事に慣れている様子で、元親の蹴りを後ろに飛んで避けた。
 着地した少年は、ぎらりと眼をひからせて元親を見遣る。
 一度やり返したのだから、ひとまず状況は対等だ。元親は一旦その場の緊張を緩めるように、こきりと首を鳴らした。
「よう、改めてもう一度聞くぜ。あいつがあんたに何したってんだ?理由もなしにそんな態度するようじゃあ誰も納得しやしねえよ」
「――理由など知るか」
 三成は言い放つ。それは、彼にとっては珍しくもない問答だった。皆が三成にそれを訊いた。そのたび三成は同じ答えを返してきたのだ。それが認められようと、認められまいと、三成には関係がない。
 元親はさらに眼を眇めて問いただす。
「だがそりゃああり得ねえ。あんたの態度は、どう見たって何かあったとしか思えねえだろうが、」
「理由などない」
 二度目の断言だ。一体どんな秘密があるってェんだと、がしがしと頭を掻きながら相手の眼を見遣った元親は、ふと違和感を感じて手を止めた。
 もう一度、離れた相手を見透かすように眼を凝らす。
「私と奴の間に、どんな理由も必要ない」
 そう言う相手の眼には、かすかに、本当に少しだけ、苦い色が浮かんでいた。
 それを見てとったと同時に瞬間的に閃いて、元親は思わず驚きの声をあげた。
「あんたそれ―――本気で言ってんのか」
 答えは沈黙だった。三成は変わらず元親を睨みあげている。
 元親はそこからたったひとつの答えを掬いだして、呆けたように呟いた。

「そりゃあ、……しんどいなあ、あんたも」

 その自分を見つめていた眼が、真ん丸に見開かれた。
 
 すると思ってもみないほど幼い表情が顔を出すものだから、元親は毒気を抜かれてしまう。
「………信じるのか?」
 三成は、それこそ信じられないという顔で茫然として言った。
「奴の友人というやつらは、――これを聞くと怒り狂う」
 それはそうだ。あの態度を見て、何もないなどと言われては嘘としか思えずに苛立つだろう。さらにそれを本当だと思ったならば、それこそ理由のないあの悪意には恐れと、それと裏返しの怒りすら覚えるだろう。元親にもそれはわかる。
 だがそのうえで元親は首をひねった。
「けどよォ……あんたは嘘を言ってねェだろう?
 だからそんな重っ苦しい眼ェしてんだ」
 当然のように確認されて、三成は絶句した。
 元親は、己の人を見る眼にそれなりの自信を持っている。
 今、目の前で立ち尽くす少年からもすうと敵意が醒めていくのがわかった。

作品名:Beast 作家名:karo