【DRRR】月夜の晩にⅠ【パラレル臨帝】
2.ウサギ語る上弦の月
情報は1つでも多い方がいい。
つきうさぎ、帝人。そう名乗った小さな生き物は、今、臨也の事務所のソファで寝息を立てて眠っている。
いつもなら取り巻きの少女たちや面倒な仕事相手などがやってくるこの部屋に、今日は誰もいれていない。昨晩に途中で諦めた監視という名の情報収集の相手に至っては、適当な理由と情報を与えてから、一方的に手を切ってしまっていた。
今はそんなちんけなものに関わっている暇はないのだ。
眠る姿は、およそ3-4歳の園児くらいの大きさ。
しかし、会話やその表情からすると、彼には高校生ぐらいのイメージを抱かせた。
立っていると、浮かんでいないことに慣れていないのか、頭が重いのか、足取りがやや危うい。
真っ先に目を引くのは、その耳だろう。
漆黒をした短髪の頭には、冗談のようなウサギ耳が2つつき生えていて、それが寝ている今でも小刻みに震え、時折、ピンと立てられては周囲に方向を変えながら音を拾う。
真っ白で細かな産毛がその表面を覆い、耳の内側は薄いピンクの肌色が透けていた。
触ると、不思議なほど柔らかく、そして温かい。
「く、くすぐったいから、あんまり触らないで下さい」
そう言って焦った声を上げた姿を思い出して笑う。
その尻尾は、まるで飾りのファーのようだったが、それも小さく揺れたり立てることができることを知って、触れたときには怒られた。
「ひ!?し、尻尾に触るなんて、礼儀に欠けますよ!!」
君達の常識とは知らなかった、などと嘯いて手を離せば、ウサギのような人間のような子供は仕方なさそうに溜め息をついて許した。
どう見ても耳と尻尾の存在によってコレは人外の生き物だったが、ソレはとても人間臭い仕草。
何より新しい世界に貪るような目を向ける欲深さは、人間の強欲な本質そのもののようで、臨也を惹きつける。
これは、面白い生き物だ、と。
「いいですか」
と、少し威張ったように居住まいを正した帝人は、自分のことを説明した。それは、真夜中の3時前、臨也がとりあえず連れて帰ってから、この事務所で行われた会話だ。
短く刈り込まれおでこのあいた髪型も、その視線を強調する。真っ青な目に見つめられながら、臨也は自分にコーヒーを、帝人にホットミルクを作ると、自分もソファの向かいに座っていた。
「詳しくは説明できませんが、僕らは『月』と呼ばれているところに住んでいる、『月ウサギ』という種族です。貴方は『地球』に住む『ニンゲン』ですよね?」
臨也はマグカップから口を離し、ゆったりと頷いた。
その様子に、帝人は半分落胆したような、半分嬉しそうな表情を浮かべた。
「僕らはこの時期になると、秋祭りの準備でススキを採りに地球に来るんです。月では採れないんですが、それをちゃんと採って来ることが成人の儀にもなりますので」
ということは、彼はこれで成人のようだ。
小さな体を見つめて臨也は少し不思議に思う。空に浮かんで見えるクレーターだらけの半月と彼の言う月が同じ物には思えなかった。あの黄白い表面に、こんな小さな半分うさぎの生き物がワラワラといたら、それはそれは女子高生にバカウケだろうが、現実味がない。
「ですが、その際にかけられる僕らの月の加護はニンゲンに触れられると切れてしまうんです。そうすると、飛ぶことが出来なくなるので、帰れなくなってしまうんです」
「それが今の君と俺の状況ってこと」
「はい」
「それは悪いことをした。ごめんね」
心にもない謝罪を彼がどう思ったのかは知らないが、彼はふるふると首を振り、その耳をへたりと伏せた。うつむいたまま、そうじゃないんです、と呟いた。
「僕はずっと、ここに来てみたかったんです。だから貴方の目が赤く見えた、仲間に見えたという言い訳をして、僕は正臣や杏里さんの言葉を無視して貴方に近づいたんだと思います」
作品名:【DRRR】月夜の晩にⅠ【パラレル臨帝】 作家名:cou@ついった