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二者択一は趣味じゃないんだ

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きっちり量った材料を順序どおりに混ぜ合わせる。
時間も限られているから、レシピはごく簡単なものを選んだ。
わざわざ食べたいと言ってくれたのは嬉しいが――唐突過ぎる。菓子を作るならそれなりに順序と言うものがあるだろうに。

それでも彼は文句は言わないだろう。いや、むしろ何を作っても褒めてくれるに違いない。
いつもそうだ。食事にしろ菓子の類にしろ、俺の料理は彼の好みにぴったりくるらしい。
当然と言えば当然である。何年も一緒にいて、彼の好みくらい把握しているのだから。そして、それを再現するくらいわけのないことだ。


「アプフェルクーヘン?」
「…ああ。シュトロイゼルだ」
「ふーん」
いつの間にか背後に寄って来ていた兄が俺の手元を覗き込んだ。
リンゴの切れ端を横から掠め取って、そのまま口へと運ぶ。

「…あんまり甘くないな」
「そのまま食べても美味くないから、クーヘンにしようと思っていたんだ」
「なるほど」
ケセセ、と笑って、兄はそのまま俺の背中にへばりついた。

思わずびくり、と身体が跳ねる。
手元が狂って指を切りそうになった。

「…にいさん、」
「んぁ?」
「邪魔をするのはやめてくれないか」
「やだ。暇」
反射的に自分の眉間に皺が寄るのを感じた。まったくこの人は。



引っ付かれた背中に伝わる体温。
ふわふわした髪が項に触れてくすぐったい。

作業をするのには邪魔以外の何者でもないだろう。
でも、その温かさを振り払うことは俺にはできなかった。
無意識に漏れる溜息。兄に向けてのものじゃない。自分にだ。