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魔法の解き方(米英)

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(アメリカ、アメリカ。・・・・・・ごめん、ごめん)
何度もあいつの名前を呼んで謝まった。
あんまり意識しないようにしていたけど、今年は恋人になって、初めてのハロウィンだ。
だから俺は気合を入れて、オオカミの耳でも生やしてやろうって思って魔法を
使おうとした。
けれど魔法は失敗してこのざまだ。
こんな大事な日に失敗をしただなんて、何回謝ったって、許してもらえないかも
しれない。
だってあいつ、行事がすごい好きだし。
それに楽しみにしているって言ってた。
恋人として、初めての行事で、しかもそれがハロウィンだから。
だからキミは覚悟をしておくように!って自信満々に笑いながら言っていたんだ。
(それなのに、全部俺がぶち壊した)
またじんわりと涙が滲んできて、胸もずきずきと痛んでくる。
どうしようと元々垂れている耳をもっと垂らした時、しっかりと閉めておいた玄関の
ドアがきい、と音を立てて開いたような気がした。
「おーい。イーギーリースぅ?」
「!(アメリカ!?)」
一階の玄関フロアから響いてくる馬鹿デカイ間延びした声はアメリカの物だ。
朝着くって言ってたのに、何でこんな夜遅くに来るんだ?
仕事が終わんないんじゃねぇのかよ。
あ、それよりも。
(こんな姿じゃ、俺のことわからねえじゃねえかよ!!)
元々あいつは魔法とか妖精さんを信じない不届き者だ。
俺が魔法でウサギになったなんて考えもしないだろう。
バタバタ、バタンと扉を開け閉めしている音や慌ただしく歩き回っている音が聞こえる。
ウサギになってから俺の耳はずいぶんと良くなったみたいで、地下のこの部屋に居ても
あいつの動きまわっている音は俺の耳に届いた。
「イギリス、どこにいるんだい!?」
声と足音はだんだん遠ざかっていく。
二階に行ったか、庭に行ったのか。それとも。
(帰った、とか)
思いついた答えは否定する要素がない。
いつもならあいつがチャイムを鳴らして俺の名前を呼んだところですぐに俺は
玄関へと飛んでいく(あいつには急いでってことはわからせないようにだけど)
前に一度だけ2階の奥の部屋に居たとき、あいつが来たことに気づけなくて
帰られてしまったことがあったときからこの屋敷のどこにいても来客を知らせる
チャイムが聞こえるようにしている。
あいつはそのことを知ってか知らずか、本当に居ないときだけ諦めて
(それでも文句のメールは来る。ならアポを取れって言うんだ)帰っていくんだ。
だから今回も屋敷のどこを探しても俺が居ないから帰ってしまったのかもしれない。
こんな深夜に飛ぶ飛行機なんてないだろうけど、別に市内にいっぱいモーテルはあるから
泊まればいいし、本当に帰りたいなら、あいつはアメリカ合衆国から帰ることもできる。
別に無理に俺を探し出さなくったっていいんだ。
そう考えると先ほどの比ではなく胸がずきずきと、音を立てて痛む。
アメリカだって、俺みたいな素直にもなれない得意な魔法さえも失敗する男よりは
綺麗で華やかな女性の方が好きなはずだ。
俺だってアメリカじゃなきゃ男なんて考えるのもおぞましい。
俺はアメリカだから良いんだ。それ以外なんて考えられない。
(けどあいつは)
アメリカにもそう思っていてほしい。俺しか、と考えてほしいけど、あいつは若い。
そして自由だ。
いつまでも俺なんかに捕らわれていてくれないだろう。
いつか、あの日みたいに俺に別れを告げる日が来るんだろう。
さすがに銃を向けてはない―――――と信じたい。
でもわからないな、とも思う。
あのときだってあいつは兄弟だった俺に銃を向けた。
恋人なんて、兄弟よりももっと脆い絆だ。
だから躊躇いもなく俺は捨てられるんだろう。
(ああでも、その反対はないんだろうな)
馬鹿みたいな話だが、俺がアメリカを捨てるだなんて選択肢は無い。
あいつは俺が未だに弟として愛している感情が強いと思っているみたいだが
そんなことはない。
そうじゃなきゃ、元弟相手に足なんて開けるか。
アメリカだから、あいつが好きだからこの身体だってくれてやっても構わないんだ。
それに俺の身体ぐらいであいつを引き留められるなら安いもんだ。
そして、この貧相な身体を愛してくれるのも欲情するのもアメリカぐらいなものだ。
ふーっと鼻で息を吐いて立ち上がる。
いつまでもここに埋まっているわけにはいけない。
まずはこの部屋から出ねえとと思ったが、俺はかなり重要なことを忘れていた。
普段、魔法を使うときは鍵は掛けないものの、かなり厳重に扉は閉める。
間違っても開けっぱなしにはしない。ということはだ。
(ウサギじゃノブを回せねえじゃねえか!!)
こんな小動物が体当たりをした程度でぶち破れるような軟弱なドアはうちには無い。
なんせ基準がアメリカの体当たりだ。
別に俺がウサギじゃなくても破れはしない。
試しにぶつかってみたが、鼻の頭やら前足やらが痛いだけでびくともしなかった。
(―――――!)
ウサギになったことで聴覚が鋭くなった俺は誰かが石畳の階段を下りてくる音を捉えた。
カツン、カツンと高質な音がやけに響いて耳に届く。
もしかして、先ほどのぶつかった音を聞きつけて誰かやってきたのかもしれない。
誰か、とは考えるまでもなくアメリカしかいないんだが、それでも俺の心臓は
ドクドクと緊張に激しく波打った。
コツコツと石畳を踏みしめる音が近づき、ドアの手前でぴたりと止まる。
俺は固唾をのんでそのドアが開かれる瞬間を心待ちにした。
作品名:魔法の解き方(米英) 作家名:ぽんたろう