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魔法の解き方(米英)

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本当は、本当に無理だったんだ。
仕事はめいっぱい溜まっていたし、ボスも俺を怒る暇もないくらい忙しくて
俺自身、我儘も言わずにこの一カ月、仕事に明け暮れていた。
なのにハロウィンが近付いてきた時期になっても仕事は終わらなくて
ギリギリまで粘ってみたけどやっぱり駄目でしょうがなくイギリスにハロウィンの日は
間に合うかわからない。キミの家に行けたとしても当日の夜遅くになるかもしれない。
そう告げた。
それなのにイギリスときたら俺を気遣ってなのか、無理はしなくていい。
別に今年だけじゃないって。
馬鹿だよあの人は。
恋人として初めてのハロウィンは今年だけなのに。
ならば、とイギリスは自分が俺の家に行こうかって言ったけどそれは却下した。
だって、仕事がいつ終わるかわからないのに、その間ずーっとイギリスを
やきもきさせるなんてできないじゃないか。
付き合う前だったら、彼のことを平気で待たせたかもしれないけど付き合ってからは
極力そういう場面を避けてきた。
だって俺は知っている。
待つことの寂しさ。焦燥。来なかった時の絶望感。
好きな人にそんな感情を抱かせたくない。ましてイギリスだ。
ネガティブで心配性なあの人は約束の時間に来なかったら泣いちゃうかもしれない。
俺の知らないところで泣かれたら涙を拭ってあげることもできない。
だからせめて気が紛れるようにと彼は彼の国で待つようにとお願いしたんだけど―――――
「どこに行ったんだい?イギリスは・・・・・・」
屋敷で俺を待っているはずの人はどこにもいなかった。

ベルを鳴らしても、ドアを叩いても応答しなかったから合鍵を使って入ってみると
屋敷の中はひんやりと空気が冷えていて、明かりも点いていなかった。
いくら眠っているとはいえ、あの人は元軍人だからこれだけ騒げば気づくはずだし
いつもは空調を入れているはずの屋敷の空気が冷え切っているのもおかしい。
(キミがあんな声で俺を呼ぶから来たって言うのに)
ハロウィンのことを電話で告げた際、じつは話す時間ももったいないくらい
忙しかったから、俺は要件を言うだけ言って切ろうとしていた。
そんな俺を彼は珍しく引き留め、言っておきたいことがあるんだと告げた。
その声があまりにもか細くてびっくりした俺は黙って彼の言葉を待った。
けど、引きとめたにもかかわらず、イギリスはなかなか言わなくて
さすがにもう切らないとまずいという頃合になってようやく言ってくれた。

「・・・待って、いるから」

その言葉のあまりの衝撃に俺は「うん」と返すのが精いっぱいでその勢いで
電話も切ってしまった。
だって、あんな途方に暮れた寂しそうな恋しそうな声を聞いたのは初めてだ。
普段とっても素直じゃなくて、日本曰くツンデレな人があんなふうに素直に寂しいって
表現をしたらヒーローである俺がほおっておけるわけがないじゃないか!
だから俺は超人的パワーを発揮して、何とか前日の定時には仕事を終わらせ
そのままイギリスへ旅立つことが出来た。
あまりにも急いでいたから彼に連絡を入れることが出来なかったけど、こんなことに
なるならば、きちんと連絡を入れておけばよかったのかもしれない。
そうしたらこんな風に誰もいない屋敷を彷徨うことなんてなかった。
ガミガミと耳にたこができそうなくらいアポを取れと言われていた意味を思い知って
俺はヒーローらしくなくため息をついた。
寝室にも書斎にもキッチンにもどこの部屋にもイギリスの姿は無かった。
来るのは当日の夜遅くって言っておいたから仕事場に籠っているのかもしれない。
諦めて懐の携帯を取り出そうとしたとき、地下から何かがぶつかるような音が聞こえた。
「もしかして・・・」
地下にあるのは酒の貯蔵庫と彼の怪しげな魔法の部屋だけだ。
いくら何でも酒の貯蔵庫に彼が居ると思えなかったし、魔法の部屋は勝手に入ると
怒られるから無意識に探索の対象から外していた。
けど考えてみれば明日というか今日はハロウィンなのだから、彼がその準備に
勤しんでいたとしてもおかしくはない。
俺は微かな希望を胸に地下への階段を下りていく。
音がしたのは魔法の部屋の方だ。
部屋の前に立ち、俺はノックもせずに勢いよく押し開けた。
彼が怒るかもしれないけど、こんなところに居るのが悪いんだ。だから―――――

「え?」

扉を押し開けたとき、確かに何かを弾き飛ばしたような感触があったのに
中には誰もいなかった。
薄暗くて見えにくいけどいくら何でもイギリスが見えないってことは無い。
だったら何を弾き飛ばしたんだろうか?
まさか・・・・・・

ふわ

「Nooooooooooooooo!!」

足に何か毛皮の塊のようなものが触れて俺は腹の底から声を上げた。
まったくもってトゥースキュアリーすぎるよ!!!
いくらイギリスだからってこんな怖いモノを恋人に寄こすなんて
許せないんだぞ!!!
あまりにも怖くて下を見れなかったけれど、ヒーローである俺が恐れを
為し続けるわけにもいかないからそうっと、そうっと足元を見る。
「ウサギ・・・?」
俺の足元に身を寄せて、ときおり裾を齧っているのは耳の垂れたウサギだった。
なんでこんなところにウサギがいるのかわからないけど、俺はとりあえず
ウサギを抱え上げてみた。
作品名:魔法の解き方(米英) 作家名:ぽんたろう