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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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6.ウサギ眠る小望月




商業用の様々なプレゼン映像を大画面のTVに映しながら、帝人は必死に覚えようと目を動かし、ところどころメモを取っていた。

「……ねぇ、持って帰ったら駄目なの?」
「これを持って帰っても再生する技術がありませんので。それを得るためにこの電気の生成技術を得ないと」

残り2日になった。ということはこの夜が2人で過ごせる最後の夜だ。
臨也は自分の情報網で電力開発、特に帝人の望む太陽光発電と電力調整に関するもの映像を急ぎ集めた。図書では帝人が解読するのに時間がかかるからだ。
絵で解説された専門書は、専門用語が並び臨也にも解読できなくて、漢字以外の文章解読が怪しい帝人にはもっと理解不能だった。
この小柄な体で持って帰ることの出来る図書にも限界がある。
迎えがどれだけの積載量があるのか不明だが、一部の者が地球の文化を持ち帰り続けて形成された月社会の偏りのある情報状態では、どこから取り掛かればいいのかすら曖昧だ。

「家電ごと持って帰っていいからさ。何なら業務用の変圧器もつけてあげる」
「いえいえ、大丈夫です」
「俺が大丈夫じゃないよ!」

TVに噛り付いた帝人へ、臨也は非難するように叫ぶ。

「もう今夜しかないんだよ?俺をもっと構ってよ!」
「……いつからそんな駄々っ子になったんですか臨也さん」
「君が来てからだよ!」

つまらないつまらないと床を転がる姿に、帝人はようやくメモを取っていた手を止め、映像を映し出す機械の停止ボタンを押した。こういった操作方法を覚えることには定評のある帝人である。
臨也転がることを止め、顔上げた。

「君にケーキを買って来たよ。昼間に新鮮な野菜を取り揃えてきたし、クラッカーも用意した」
「何ですか?」

臨也がひょいと取り出した円錐形の物体に帝人が興味を示す。
無防備に近づいてきた方へ底を向けた臨也は、勢いよく先端から伸びる紐を引いた。

 パンッ!

乾いた音が鳴り響く。

「わぁ!?」
「あははははは!」

飛び上がった小さな体は慌ててソファの後ろに回り、耳だけがピンと立ち上がってそこから覗く。
続く音がなく、臨也の笑い声が飽和する状況に恐る恐る顔を出せば、腹を抱えて転がっていた臨也がウインクしながら陽気に言った。

「君の送別会だよ。豪華2人きりで最後の晩餐といこうじゃないか」

その声には、わずかに寂しさも含まれているようだった。




腕の中で舟をこぐ、体と対比すると大きな頭部を、臨也は自分の胸に押し付けた。
元々抱え込まれていた体に加え、頭まで安定した場所を得た子供は、少しだけ身じろぎをしてくたりと体重を預けて眠りにつく。
臨也は手にしたリモコンでTVを消した。
食べきれないほどの食事、見切れないほどの映像、目一杯詰め込んで満たされた帝人は、耐えかねて眠りについてしまった。すでに太陽は斜めに上がり、もう少しで南中しようかと言うところだ。
きっと最後くらい頑張って起きていようとしてくれたのだろう。
その気持ちが嬉しくて、起こさない程度に抱きしめてから、そっと持ち上げて立ち上げ、寝室へと連れて行く。

「おやすみ、帝人くん」

そっとベッド寝かせ、その耳と額にそれぞれキスを落とした。が、服を掴んでいた手が離してくれず、その体勢のまま体が上げられない。
自分を子供っぽいと揶揄するくせに、こんなところで彼もやはり子供だ、と声をたてずに笑う。
そっと手の平を開けさせて体を離せば、自分よりも高い体温がなくなったせいでわずかに肌寒さを感じた。そういえばもう、寒い季節が来ていた。
部屋を出る瞬間に、急激に押し寄せた鍵を閉めてしまいたいという欲望を噛み締める。
こんなかたちで彼を手に入れても自分はきっと満足は出来ない。
そして彼の抜け殻になってしまった冷たい体を目の前にしたら、恐らく自分は自分ではいられないだろう。後を追うような行為は馬鹿馬鹿しい、したくない。

「月が昇り始めるのが、18時……」

臨也は携帯画面で時刻を確認した後、電話をかける。
自分が彼にしてあげられることを考えたときに思いついた、最後のことを実行するために。