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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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7.ウサギ跳ねる満月



寂しい、と。
そう言った彼の目を思い出しながら、帝人は薄っすらと目を開く。
泣きたいのに泣くことの出来ない震える体を、もう1度頭から抱きしめてあげたかった。
太陽が昇ってもなお一生懸命に起きようとしていたことが祟ったのか、目を覚ませばすでに辺りは暗く夕暮れを過ぎようとしている。

「っい、臨也さん!」

ベッドの中で起き上がっても、目的の人物は見当たらなかった。
いつもなら耳をくすぐって悪戯していたり、コーヒーを飲みながら開け放たれた扉の向こうでこちらを伺っているのに、気配もしない。

「臨也さん?」

寝室の扉を出て彼がいつもいるリビングに出てみても、やはりその姿はない。
敏感に音を拾う耳をぐるぐると周囲に向けてみても、バスルームにも、廊下にも、どの部屋にも彼がいる物音はしなかった。
ふと思う。
もしかすると彼は、自分に勝手に出て行けという意味を込めて置いて行ったのかもしれないと。
きっとあの寂しがり屋な男は、置いて行かれることに酷く怯えているだろう。だったらその光景を目の当たりにする前に、自分が置いて行くという選択をとってもおかしくはない。

帝人はとりあえず服を着替えようと寝室に戻る。
着てきた服と、臨也が買い与えた服が並んで置かれていた。
この世界に痕跡を残すことはしてはならないと教えられた。すでに自分は臨也の心に痕跡を残してしまっているのだから、無用な心配であるようにも思えたが。
悩んだ末に、臨也が買って来た服を着て、帽子を被り、その上にフードを被って耳を押さえた。

「服と一緒に心を置いていきます」

せめて忘れないでいて欲しいと願うのは、帝人の我が侭でしかないけれど、それでも置いて行きたくなった。
部屋に戻った男はどんな気持ちでこれを見るのだろうか。
置いて行くほうの苦しさを今、少しでも味わっているだろうか。
自分だってここに残りたいという気持ちがあることを、彼はちゃんと気付いているのか。
そんな切なさも全部、全部、ここに置いて行く。

手に持てるだけの資料を抱えて、帝人は靴を履いた。
玄関の出方は知っている。鍵を開けたまま行ってしまってもいいものか少しだけ考えて立ちすくんだ。
ふと、扉を見つめる。
ひとりでに鍵が開いた。
いや、ちゃんと大きな耳で音は拾っていたのだから、ひとりでにではなく、駆けて来た男の足音が大慌てで扉の前に止まり、鍵を差し込んだことを知っている。
ただ、男がどんな顔をして扉を開けるのかが怖くて、見つめていたのだ。

「み、帝人くん!!」

扉を外しそうな勢いで飛び込んで来た男に、蹴り飛ばされそうになって帝人は慌てて場所をズレた。扉の影になってしまったことで気付かなかったのか、臨也は靴のまま部屋に上がって帝人を探し始める。
驚いた。
臨也は泣きそうな顔でも、怯えた顔でもない、ただ純粋に慌てた顔をしていた。
部屋の中で大声で名前を呼び、探し回る物音にはっとする。
自分も構わずに靴を履いたままリビングに戻れば、肩を落として絶望を叫びそうな後姿を見つけた。
この人は……。

「臨也さん」

声をかければ、切れ長の目は大きく開かれて振り返る。
帝人を視界に入れることが叶えば、ほっと安堵に息をついた。

「良かった、間に合って」
「すみません。もう少しで間に合わないところでした」

靴を履いた足を片方だけ上げて見せると、臨也は駆け寄ってきてその小さな体を抱きしめた。
きゅうきゅうと締められれば、苦しいのは息だけではなく、心臓のあたりもだ。
寝室に置いてきたつもりの心は、やはり切り離すことなんて出来ずに今もこうして小さな胸を締め付けている。

「見送りぐらいさせてよ」
「はい。お願いします」

帝人の顔を覗き込んで、臨也はゆっくりと額にキスを落とす。
そのまま抱き上げると、すでにその体勢に馴染んだ2つの体はピタリと当てはまったパズルのピースのように重なる。

「……じゃあ、行こうか。俺のかぐや姫」

名残を惜しんでいる暇はない。すでに月はその姿をオレンジ色に染めながら水平線を脱していた。
それを理解していながらも、帝人は返事をわずかに躊躇う。
1度その胸の中で目を閉じれば、この1週間で見聞きし、臨也と過ごした時間が瞼の裏に確かに存在していることを確認した。
心残りなら、ある。
けれどだからこそ、ここに心を残して行こう。
そしてこの男の心も、自分の中に残して持って帰ろうと思う。
帝人は顔を上げ、ふんわりと笑いながら臨也に視線を向けた。

「はい。僕の臨也さん」