GUNSLINGER BOYⅤ
新羅が定期検査前に義体たちの様子を確認しようと専用待合室に入ると、作戦2課技術部でも話題に取り上げられることの多い2人が何やら話しこんでいた。
赤髪の少女が快活に話す横で黒髪の少年が赤面している。
見るからにほほえましい雰囲気だ。こうして見ると本当にただの思春期の子供にしか見えない。
「やぁ、二人とも。調子はどう?」
「あ・・岸谷先生」
「こんにちはー」
「二人とも恋バナする女子高生みたいだねぇ」
「やだ先生なんで分かったんですか~?」
「ちょ、ちょっと!いえ、違うんですっ」
半ば冗談で言うと美香が臆面もなく肯定し、帝人は非常に分かりやすいリアクションで否定した。
最近暗い顔の帝人しか見ていなかったため、少し安心する。
性格の明るい美香と話しているせいだろうか。
この美香という少女はある一点を除けば思いやりのある良い子だし義体としても優秀だ。
その一点というのが問題だのだが。
美香はここに運び込まれてきた時には事故により顔の造形が分からないほどになっていたため、体と同時に顔も作りかえることになった。
そのため、元々日系の少女は新しい顔のデザイン上、アイルランド系の顔で生まれ変わった。
で、唯一の問題というのが彼女の性質のいうか、担当官への異常なまでの執着心だ。
担当官への執着ならば他の義体にも少なからずあるが美香の場合はそれが常軌を逸している部分があった。
これがなぜか、条件付けでもなおらない。
事故の衝撃で脳に何らかの障害ができてしまったという説もあるが、あくまで推論である。
因みに、元々そういう性格だったからじゃないかというのが新羅の意見だ。
性格を根元から変えるというのはいくら条件付けでも難しい。
それまで何人もの担当官と組むことになった彼女だがその度に担当官たちは彼女の重すぎる愛に耐えかねて辞めていった。
義体としては優秀なためなんとか彼女の愛に耐えうるパートナーを探していた所に現れたのが矢霧誠二だ。
誠二は公社ともつながりがある製薬会社の幹部の弟であり、偶然公社に来た際に彼女に一目惚れしたらしい。
なんでも昔の初恋の人に似てるとか似てないとか。
この矢霧誠二というのがまた、美香の“首から上”にしか興味が無いというちょっと異常な性質の持ち主だったりするのだが、なぜか美香とは非常に上手くやっており二課の間では結果オーライということになっている。
そんなわけでめでたくフラテッロができあがったころ折原臨也が作戦二課に配属され、帝人のパートナーに決まった。
今ではこの二組が任務完遂度の№1、2を争っている。
担当官の変人度合いも№1、2と所内では言われているが、自分の義体への執着度もこの二人がトップを争っているだろうと新羅は思う。
「体の調子が悪い所とかあったら正直に言ってよ?外から綿密に調べても気がつかないこともあるから」
「はい」「分かってます」
「特に帝人君は遠慮して言わなかったりするし」
「そんなことありませんよ」
帝人のふにゃりとした笑顔を見て、
やっぱりあいつを担当官にしたのは間違いだったんじゃないかと今更ながら思った。
作品名:GUNSLINGER BOYⅤ 作家名:net