GUNSLINGER BOYⅤ
君の選択
目を開いて見えた世界は奇妙にかすんでいて、ぐるぐると回っていた。
上下の感覚がまったくつかめない。平衡感覚が狂っている。
手を動かしてみても動かしている感覚が無くて、むしろどこに手がついているのか分からない。
体がバラバラになってしまったみたいだ。
強烈な眠気を催した時のように脳の奥が痺れる。乗り物に酔った時のように吐き気がこみ上げる。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
不意に、額に覚えのある感触が触れた気がした。わずかにひんやりとした、誰かの、手。
ぐるぐると回り続ける視界に黒い人影が映った気がして、導かれるようにどうにかして手を伸ばした。
なぜか懐かしい気がしたけれど深く考える余裕がない。
頭が、不規則な強弱をつけてズキンズキンと痛む。
狂ってしまいそうだ。
いや、狂ってしまったのか。
喉の奥から声にならないような呻きが漏れて、それがどこか遠くのもののように聞こえた。
そっと、
額から頬にかけてを誰かの指が優しく撫でた。
繰り返し、繰り返し。
まるでその触れられている部分だけが砕け散りそうな意識を繋ぎとめるかのようだ。
ああ、知ってる。これが、誰なのか、僕は知ってる。
・・・ざ・・や・・・・さ・・・・
必死で呼んだ名前はほとんど声にならなかった。
その手が僕のゆがんだ視界を遮るかのように、目蓋の上に置かれる。
そこで、僕の意識はまた深い暗闇へと落ちて行った。
作品名:GUNSLINGER BOYⅤ 作家名:net