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僕の甘い痛みの話【歪アリパラレル】

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「津軽のわからずやー!あんぱんはこしあんなんだよ!」
「…サイケ、しつこい。あんぱん、つぶあん 一番」
きゃんきゃんと言い合いを続けている彼らを交互に見つめながら、帝人はちんまりと座って待機をしていた。一方はピンク色のファーがついた白のコートを着ており、耳にはピンクのヘッドホン。大人びて整った顔立ちに似合わないほどの舌ったらずな言葉を使い、ぶんぶんと手を振りまわしている。もう一方は金髪の間に揺れる青色の瞳を淡く細め、青系色で纏められた着物に銀色の煙管。必要最低限の単語でピンク色の青年と向き合っている。帝人は ええと と言葉を選び、息をついてさっきまで近くにいたはずの静雄を探して首を捻った。
「…あのう…あ、あんぱんさんはどちらに…」
怯えながらも、ついつい小声になる自分に呆れて帝人は息をついた。喧々として自分の言葉など聞こえないと高をくくっていた帝人の予想に反して、彼らは目を丸め、座りこんでいる帝人を見つめる。あれ、帝人が目を丸めたと同時に、ピンク色の青年の方が感極まったとばかりに帝人を持ち上げた。ぐえ、蛙が潰れたような声を上げながら、ぎりぎりと遠慮なく加えられている力に帝人が蠢いていると、青年は涙をながさんばかりに破顔して 帝人くん! と叫ぶ。
「みかどくん!みかどくん!! おかえり、おかえりなさい!!」
「…みかど…おかえり… 待ってた…」
先程まで青年と言い争いをしていた青色の青年までも、手元を覗きこみ帝人へ潤ませた瞳をそそぐ。一切の濁りも無く透明な瞳を見つめていると、その瞳が飴に近いような感覚を覚えて帝人は引きつったような笑みをぎこちなく浮かべた。ピンク色の青年は嬉しいのかぴょんぴょんと跳ねまわり、青色の青年は冷めた視線でそれを見続ける。
「みかどくんだ、みかどくんだ!!…あれ、けどみかどくん、ちっちゃくなったねぇ」
「…ほんとう でも ちっちゃい かわいい 」
ぷにぷにと頬をつつかれ、指先から仄かに香る匂いに何かを思いだしながらも 帝人は困惑した表情で青年たちを見つめた。
「あの、僕 お二人とは初対面だと 思うん です け… く、苦しい…」
「サイケ みかどのあん 出る」
青色の青年が困ったように眉を歪め、ピンク色の青年を咎める。青年は瞬きを行い、ぐったりとする帝人を見つめ、ゆっくりと力を緩めた。急激に戻ってきた余裕にぜえぜえと息を行いながら、帝人は気を取り直して青年たちを見上げる。
「あの、ちっちゃくなっちゃったのはその、指を食べたからで…。あ、あの、指っていってもそれは指の形をしたジャムパンで…!」
「ジャムパン ちいさくなる あんぱん おおきくなる」
帝人の訴えを聞いた青色の青年は呟き、ピンク色の青年は悔しそうに眉を歪めた。
「ジャムパン、いいなぁ。みかどくんにたべてもらえるの いいなぁ」
「あ、あの? …ええと、それでですね、あんぱんを探して食べたら、大きく というか元のサイズに戻れると聞いて…」
青年たちは帝人のたどたどしい物言いに、段々と目を輝かせた。帝人を近くにあった噴水のふちに下ろし、青年たちは二人とも蕩けるような笑顔を見せる。帝人がぎくり、と背中をまっすぐにのばすと、彼らはにこにこと笑いながら 自らの左手薬指を引き抜いた。
「……………えええええっ!!!」
何のためらいも無く自らの指を引き抜き、あまつさえ引き抜いた指を帝人に近づけようとする彼らから、帝人はじりじりと後退して逃げようとする。彼らは逃げようとする帝人へ困ったように視線を送り、無邪気に首を傾げた。
「みかどくん、なんでたべてくれないの?サイケおいしいよ。こしあんだよ」
「…みかど おれ たべて。つぶあん、おいしい」
ふにふにと指の先を提示されて涙目だった帝人は、ふと指の切り口に視線がいってしまい、瞬間そらしたそれが何かおかしかったことに気付いて、もう一度恐る恐る 青色の青年の指の切り口を見つめる。人間に必ずあるはずの骨や血管はそこにはなく、つぶつぶとした餡子が切断面にはぎっしりと詰まっていた。帝人はゆっくりとピンク色の青年の指も見つめる。こちらはさらりとしている餡が、しっかりと詰め込まれていた。
「…あ あん ぱん …?」
「そだよー、俺がこしあんで津軽はつぶあん!」
「サイケ おいしくない 俺 おいしい たべて みかど」
帝人はぐいぐいと押し付けられるパンを見比べ、ふと自分が食べさせられたジャムパンも元々は彼らと同じように人間そっくりの外見で動いていたのかと思い 血の気を引きながらくらくらと目を回した。