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マルナ・シアス
マルナ・シアス
novelistID. 17019
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【東方】東方遊神記10

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「ほほぅ・・・これはまた可愛らしい・・・」
「天魔様」
このやり取り二回目(笑)。御影は可愛いものが好きなようだ。
「この娘は青蛙神。つい数時間前、顕界からスキマ妖怪によってこちらに飛ばされてきたんだ。あたしらも聞いた話だけど、顕界でまぁいろいろあって消えかかっていたところを、八雲 紫に捕まったというわけ。今は諏訪子の帽子を依代として存在力を補っている状態さ」
神奈子はそこまで御影に説明すると、今度は青蛙神に向きなおって御影の紹介を始めた。「青、彼女がこの山を実質的に管理、統制している天狗一族の長、天魔の相羽 御影だよ。彼女を中心に天狗たちが頑張ってくれているおかげで、あたしらや、他の山に住んでいる奴らも平穏無事に過ごすことができているんだ」
恥ずかしがらずに他人を褒めることはとても大事なことである。それに、これは事実だし。
「いやいやいや、そんなにおだてていただいても、こちらはお酒くらいしか振舞うことができませんよ」
照れた様子の御影は大袈裟に笑いながら自分の顔を手で扇(あお)いでいる。
「以後お見知りおきを、青蛙神殿。私も一人紹介しておきましょう」
御影はそう言って美理に前に出るように目配せした。
「彼女は鞍馬 美理。私の用心棒であり、参謀であり、剣術の師匠であり、そして刎頸(ふんけい)の友です。ほら美理、青蛙神殿に御挨拶を」
そう言われた美理は一歩前へ出て、深々と一礼し、静かな、しかしはっきりとした声で「よろしくお願いします。青蛙神様」
と一言だけ言った。・・・これを読んでいるお前さんも予想出来ていたと思うが、美理の顔は先程の御影の言葉のせいで赤くなっていた。これには青蛙神も好感を覚えた。
「ところで、私たちも結構昔に顕界からこちらへ移って来たのですが、青蛙神という名前は聞き憶えがありません。青蛙神殿は顕界のどのあたりに住んでいらしたのですか?」
青蛙神が自分のことを話す暇なく御影の方から質問が始まった。
「おっ?おぅ。我は顕界では【後梁】、といっても解らぬか。大陸の東端、海に面した国を中心に暮らしておった。これでも当時は民草から福の神と崇められ、かなりの信仰を得ていたんじゃが、時代が進むにつれて、民草は信仰から離れて行った」
やはり当時のことはあまり思い出したくないのか、声のトーンは低めだ。
「なるほど、そこらへんは八坂様たちと境遇が似ていますね」
「あたしらなんかはまだましな方だったよ。この娘に比べたらね」
「ほう・・・?」
「・・・話を続けてもよいか?」
「おっと、申し訳ない。どうぞ」
「うむ。我も当時は信仰回復のために努力したんじゃが、もうすでに人間にとって神様や人外の存在が遠い絵空事のようになってしまっていたから、いくら我が功徳を説いて回っても、誰も相手にしてくれなんだ。もともと我の外見は人間の幼子に酷似していたから、尚更じゃ」
顕界歴で1900年代に入ってくると、それまでにも起こっていた世界規模の戦乱もいよいよ激しさを増していき、民草は贅沢はおろか満足な食事をとることもできず、男手とあらば皆兵隊として駆り出された。それ自体は昔からよくある話であったが、重税や兵役は常に怨嗟(えんさ)の対象だった。しかしこの頃になると、国を正道へと導くはずの代表たちが、逆に国民全員の意識を操作し、戦争へ積極的に参加、協力するように仕向けた。そして、一部の真っ当な者を除いて、殆どの民草が狂ったようにお国のため、戦争に勝つためと、必死になっていたのである。とても信仰心がどうのと言っていられる状況ではなかった。さらに、その戦争の火によって、神格の地上における唯一の拠り所である神社仏閣も次々と破壊されていった。
そんな中、化学者は、その火の力を強力なものにするための研究に必死になり、そして国のお偉いさん方は、本来誰のものでもなく、恩恵を得られることに感謝するべきであるはずの、父なる海まで山分けにする話し合いをするのである。ほんの軽く調べただけだが、実際に調べた筆者からしても、狂気の沙汰としか思えない。
「・・・もう人間どもに神は必要なくなってしまったのじゃ。我はもう人間どもに期待するのはやめて、蝦蟇が向かった天界にでも行ってみようかとも思った。それとも、希望を捨てずに人間どもを信じて功徳を説き続けようかとも思った。随分長い間悩んだ。その間にも存在力が減り続けた我の体は、実体を維持するのも難しくなっていった。人間どもも凄い勢いで醜いものになっていった。・・・我はもうその時点で全てが煩わしくなってしまったんじゃ。このまま消えて無くなれば、辛い思いもせずに楽になれるんじゃなかろうかと思い、最後の酔狂として、狭い土地に八百万【やおよろず】の神々が住まうと聞いていた日の下の島国へ向かった。・・・そこで、地獄すら温い様な光景を目にしたんじゃ」
既に話を聞いている神奈子や諏訪子も神妙な顔つきになっている。そして、普段だったら目をキラキラさせて、取材メモを手に聞き耳を立てているはずの文も、話の内容が尋常なものではないというのを感じ取っているのか、あからさまなことはせず、静かに控えていた。こう見えて射命丸 文という人物は、空気の読めるできた女なのである。
「既に実体を持てなくなっていた我は、幽霊のようにふわふわと漂いながら日の下を目指した。夜に大陸を出発し、夜明け前までにはたどり着くだろうと思ってな。じゃが、思っていたよりも時間が掛かってしまい、島が見えてきた頃には日も完全に上っていた。存在力もぎりぎりで、やっとの思いで島に着くとなったところで、島の南の方に、鉄でできた大きな鳥が物凄い勢いで飛んで行き・・・そこで、太陽の欠片を落としたのじゃ」
神奈子も諏訪子も青蛙神がそこまで話すと静かに目を閉じた。
(太陽の欠片?一体何のことでしょう?)
千年近い時を生き、顕界で暮らした経験もある文でも、今の話にはピンとこなかった。しかし、御影は何かを悟ったようだ。
「太陽の欠片・・・神奈子様、諏訪子様。なるほど。つまり、八咫烏、核融合の力ですね」
御影は関係している人物や状況を総合して、見事に正解を導きだした。そして御影の言葉に、そこにいる全員が反応した。
「日の下ではそう呼ばれているようじゃな。そうじゃ。神奈子様たちから聞いたが、その核融合とかいう、およそ三足鴉の力としか思えないような強大な力で持って、人間が、同族の人間が数多く暮らしておるはずの土地を焼き尽したのじゃ。燃やされた土地にどれだけの人間がいたかはわからんが、少なくみても、おそらく万を超える何の罪もない人間が焼き殺されたじゃろう。それも、人間の手によってな」
この話を聞いた瞬間、御影の後ろに控えている美理の表情が鬼のような形相に変わったが、またすぐに元に戻った。御影の表情は変わらなかった。が、色々と思うところはあるだろう。にとりの件もあるし。