三尺秋水(パロ)
「しゃんしゃんしゃらら、しゃんしゃらら。」
楽しそうに博は歌いながら麻雀パイを掻き回している。
最近忙しくて来れなかったため、博の様子を見るために訪れると、ちょうど葵も仕事で留守にしていたらしく、一人ではまともに着物を着ることができない博は男物の浴衣を適当に着ていた。
着ているというよりは引っ掛けただけ、という風だったが。
見兼ねた俺は、それをきちんと着せてやる。
すぐに前をはだけさせようとしたが、手をやんわりと掴むことで止めると、むすりとした顔をしながら、仕方ないという空気を出した。
「佐藤殿は麻雀とかされるんですか?」
未だにじゃらじゃらと牌を混ぜる博を横目で見ながら俺は首を横に振る。
「賭け事はしねーなぁ…。」
少し意外だな。という気持ちを表情に浮かべた博は、何かを思い付いたようで、ニヤリと笑った。
「ならアタシと何か賭けてやってみません?金品等は抜きで…どうです?」
じゃらんじゃらんと牌を弄びながら博が誘いをかけてくる。
のるのか断るのか、二つに一つ。
俺は昔世話になった兄貴と共に習った麻雀のルールを思い出しながら、台の前に座った。
「さぁ、何を賭けようか。」
女物の着物に着替えた博は、たいそう不機嫌そうな顔をしながら俺の隣を歩いていた。
「何なの?麻雀や賭け事なんてルールも知りませんみたいな顔をしておいて、しっかり知っているうえに強いじゃない!」
見事に賭けに敗れた博は、財布の中身を確認してため息をつく。
「次の仕事の報酬が入るまでは何も買わないつもりだったのに…。」
「俺は博が作った飯が食いたいって言っただけだろ。」
じとりとした目で博は俺を見る。
「だから、何も買わないつもりだったんですよ。」
ぶつくさと言いながら何やら計算を始めてしまった博を見ながら、俺はふと思ったことを尋ねることにした。
「何もって、今まで飯はどうしてたんだ?」
聞いた途端、計算を止め、苦々しい表情を浮かべた。
「葵が備蓄している納豆と、残っている米を食べていたんですけど、流石にそれをお出しする訳にはいきませんからねぇ…。」
どうやら葵や俺がいない間、まともな物を食っていなかったらしい。
通りで細くなっている訳だ。
「まぁ、次の報酬が入るまではもちそうなんで、日持ちする物でも買いますか。」
そう言いながら博は干物を指差して店員に声をかけた。