三尺秋水(パロ)
そろそろ染色しなけりゃ、プリンとかいう菓子になっちまぁや…と、博に貰った姿見に映った自分を見て思った。
見ながら潤は昔世話になった兄貴分のことを思い出した。
同じような環境で育った。
一緒に成長した。
金髪の男。
「にゃーにゃにゃー。」
突然猫のような声を出しはじめた博に、若干引きつつも、俺に背を向け、脚を上げているせいで少しはだけた女物の着物から白い脚が覗いているのに顔をしかめた。
「何してるんだ。」
「猫の形した飴食べてる~。」
こちらを振り向いた博は、ちゅるりと口から棒を取り出し、先端に付いた白い猫の形をした飴を見せた。
その態度にわざとらしくため息をついてみせると、博は上機嫌に笑った。
「おい、脚、おろせよ。」
ぱたぱたと動く脚を見ていられなくて言えば、何を思ったのかは知らないが、何やら納得した顔をしてから、膝をそろえて座った。
「佐藤殿には刺激が強かった?」
何を男相手に馬鹿なことを、女相手ならいざしらず。
付き合いきれないという気持ちをこめて、俺は無視を決め込んでやった。
「佐藤殿のいけず~!まだあの団子屋の………」
我慢しきれなくなって、博から飴を奪い、猫をかみ砕いてしまった俺は悪くない…と思いたい。
「うへぇ、よりによって首を砕くとか惨いよぉ。」
口から取り出して猫の飴の残骸を見せ付けると、そんなことを言ってしょげてしまった。
いかにも悲しんでいますという空気を出されてしまい、これはどうしたものか、こんな所を葵に見られたら絶対に簪の刑に合う。
今回ばかりは博も止めないかもしれない。
「おい、飴なら俺がかわりのを作るから。」
うるうるとした瞳を俺に向け、本当に?と尋ねてくる博に何故か顔が熱くなるのを感じた。
男相手に何をやっているんだ…。
「なら、佐藤殿が作った夕飯を食べたいです!」
「はぁ?俺がしてたのは新しい飴を作ってやるって話だよ。それに夕飯奢りじゃぁ割に合わないだろう。」
博は『チッチッチ。』としてみせて、立ち上がるといくつもの引き出しの中の一つから小鬢を取り出してみせた。
「なーんだ。」
それは今までも何度か貰ったり買ったりしたことのある物だった。
「これでもまだ合わない?」
ちょうど欲しいと思っていたそれを見せ付けられ、俺は渋々頷いた。
「何が食いたいんだ?」
博はにやりと笑った。