angel lamp1
「これからよろしくね、カイト」
彼女がそう言った時、握手を求めてこなかったことに、心の底から安堵する。
その手に触れるなど、考えただけで恐ろしくて。
「カイト、ちゃんと返事しなさい」
マスターの言葉に、僕は嫌々口を開いた。
「・・・はい。宜しくお願いします」
マスターの指示は、絶対。
あなただけが、僕のマスターだから。
マスターに急きたてられ、僕は、玄関前に止まっているという、馬車へと向かう。
その時、僕を引き取った女性が、右足を引きずっていることに気がついた。
マスターが、彼女を労わるように、左腕を支える。
「大丈夫?馬車で待っててくれても、良かったのに」
「ごめんなさい。どうしても、待ち切れなくて」
僕に話しかける時とは違う、優しい声。
やりきれない思いで、僕は、足もとに視線を落とした。
マスターにとって、僕よりも、彼女の方が大切なんだ。
恐ろしい魔女のような、彼女の方が。
馬車に近づくと、傍に、見知らぬ男が立っている。
彼は、僕達に気がつくと、歩いてきて、
「これが、カイト?随分、色が抜けてるな」
じろじろと、僕の頭からつま先まで、眺めまわした。
こんな視線には、慣れている。
僕が、身じろぎせずに立っていると、
「やめて」
囁き声が聞こえた。
作品名:angel lamp1 作家名:シャオ