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あなたが銀河に戻るまで

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 ティエリアは刹那を見送った後に、コンパートメントに入ってきた人物をみて顔をしかめた。
「またそんな顔するの」、とリジェネはそれを見てくつくつ笑う。「イノベイター…どうしてきた」、とティエリアはリジェネに問うた。どうしてって、とリジェネはティエリアに言った。「僕が来るのが悪いという理由がわからない」。あと、僕はリジェネだって、前に言っただろう。
 にこにこと笑って、リジェネはしかめっ面をしたティエリアの手を引いた。「星が見たいな。次は海王星だろう」、と、ティエリアを無理やりコンパートメントの外へ連れ出していく。ティエリアの静止も聞かずに、リジェネは通路をひたすら進んだ。何両か渡った後に二人は展望室に着く。
「そうだ、お話は楽しかったかい」、そうリジェネはきいた。何のだ、とティエリアは訝しげにそう尋ねた。
「最初から言う?…アレルヤ・ハプティズム、刹那・F・セイエイ十六歳、フェルト・グレイス、ソラン・イブラヒム、ハレルヤ・ハプティズム、ライル・ディランディ、そして刹那・F・セイエイ二十一歳。星を見ながら話してたんだろう。僕、それがうらやましくって」。リジェネは指折り数えてティエリアの元へいままでやってきた人物を挙げた。「何故知っている」、とティエリアは聞いた。
 リジェネはやだなあ、とため息ひとつついて、「いつでも繋がってるって言ったじゃないか、ティエリア・アーデ」、と微笑んだ。悪寒がする、とティエリアは思った。
 リジェネは跳ねるような足取りで席へついた。
 それから、並んだシートをぱんぱん、と手で叩く。「はい、ここ」、とティエリアを手招きした。ティエリアは動かない。それを見かねて、リジェネは席から立ち上がってティエリアの背中を押した。しぶしぶティエリアは席に着く。
 リジェネももう一度席へ着いた。
「そろそろ見えてくる頃だ」、と前面に広がる、窓ガラスの向こうの黒檀の天幕を指差した。「照明は消した方がいいね」、とリジェネが言った瞬間に明るさがなくなる。窓だけが浮き上がっているような感覚を、ティエリアは受けた。むしろ、自分が窓の向こう側に居るような感覚だった。「まるでプラネタリウムだ」、とリジェネは笑った。
 リジェネにとって何が楽しいのか、ティエリアはまったくわからなかった。ただ、リジェネはとても嬉しそうに微笑んでいた。そして、「ああ、見えてきた」、と窓の向こうを指差す。
「知ってる?ティエリア、海王星は最初惑星として観測されなかったんだ。当時はただの恒星かと思われていた。それが惑星だと言うことを発見した人間と、今まで観測していたけれど惑星だと気がつかなかった人間の二人が、自分が第一発見者だと互いに言い合ってもめたんだ。馬鹿だよね」。
 ティエリアは知っていたが、そうだな、と頷いた。その点についてはティエリアも同じ考えだった。
「どちらが見つけたかなんて、本当にどうでもいい」。ねえ、でもそれって、誰が誰を、誰よりはやく好きになったとか、会っただとか、そういうのと同じだと思わないかい。「そういうちょっとの差で、何か決定的に違うことってなんだと思う?ティエリア。…二人は結局どちらもが発見者として知られているんだけれど。つまりね、この場合に限ってかも知れないけれど、どちらが早く見つけたとか、そう言うのは誰かが言い出して、自分もそうだって言い出した瞬間に一番なんて関係なくなるんだよ。だって、証明できるのが自分しかいないのだもの」。
 自分が証拠で、自分が正しいと自分自身が信じ込んでいる。「だからさ、もしあの星を見つけたのが、その二人のどちらでもなかったとしても、その二人のどちらでもなかった人間が、言いださない限り誰も信じてくれやしないんだよ。自分の証明は自分でするしかないんだから」。
 そうだろう、ティエリア、と、リジェネは暗がりの中で、ティエリアを見つめた。
 ティエリアも、リジェネを見つめていた。「なんてね」、とリジェネがにっと笑ったので、その話はそこで終わってしまったが。
 ティエリアは少し呆けて、それからため息をひとつ吐き出して、リジェネと同じように窓の外を仰ぎ見た。

***

 青色の星はひどく冷たいもののようにティエリアは感じた。確かに、あれは太陽からひどく離れているために、太陽からの熱を受けず冷え切っている。「寒くなってきた」、とリジェネがつぶやいた。
 たしかにその服では寒いだろう、と悪趣味な、あのひらひらした服をきたリジェネに、ティエリアは言った。
「それ貸してよ」、とリジェネはティエリアの外套の裾を引っ張った。ティエリアは何をいっているんだ、という顔で、「は?」、とリジェネの言葉を聞き返した。リジェネはだからさ、貸してよ、ともう一度言う。
「馬鹿いうな。誰が貸すか」、お前なんかに、とティエリアはそっぽをむく。膝にかけるだけでいいからさあ、とリジェネはもう一度言った。それから、「ああ、この肘置き邪魔だね」、と、リジェネはティエリアとの間になったそれをシートの方へ折りたたむ。そのままティエリアの方へ寄ってきた。 
「寄るな気持ち悪い」、とティエリアは毒づく。だって寒いし、とリジェネは逃げかけたその腕を捕まえて手の甲を手のひらで包んだ。「冷た」、とリジェネが呟く。
 そう変わらないだろう、とティエリアも言った。
 そうそう、君の予想は正しいよ、この次にあるのはもう惑星じゃない準惑星で、もとは惑星だったあの星が見えてくる。「会いたかったんだろう」、大丈夫さ、きっと会えるよ。そうリジェネが言うのを、ティエリアは不思議な気分で聞いていた。何故そういえるんだと、ティエリアはリジェネに問いただした。
 リジェネはさてね、と頷いた後に、肩にかかった外套を自分の方へよせ、それから手を伸ばしてティエリアの肩にかかっている端の方も、ティエリアの方へ寄せる。
 ティエリアはため息をついて、されるがままにしていた。変に拒むと粘着質になると気がついたからだった。
 夢でよかったあ、とリジェネが不意に呟いた。ティエリアは何が、と聞かずに、そのままリジェネに喋らせる。リジェネは夢じゃなかったらみんなにわかってしまうからね、という。
 みんなとはリボンズら他のイノベイターのことだろうとティエリアはすぐにわかった。「面倒だな」、とティエリアはため息をつく。そうなんだよ、面倒でね、とリジェネは頷いた。「人間であるならば、多分もう発狂してしまっているだろうな」、と。
「言い過ぎじゃないか」、ティエリアがリジェネに言った。毎日毎日頭のなかで響く声をきいてごらんよ、とリジェネもひとつため息をついて言う。「ニート働けとか」。それはお前が悪いんじゃないか、とそういったリジェネにティエリアが言った。
「僕等に何故星の情報が事細かにわかるか、しっているかい」、とリジェネはティエリアに問うた。ヴェーダを掌握しているからかとティエリアは思ったが、「僕等に必要だからさ」、とリジェネは答えた。
 いつかはくるだろういつかのための知識だよ。「ロマンチストを気取って、知ってるわけじゃあ、ない」。
作品名:あなたが銀河に戻るまで 作家名:みかげ