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あなたが銀河に戻るまで

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 誰もそう思ってない、とティエリアは思ったが、そういえば口をついて出てくる星の話は、記憶と無意識に勝手に出てきていたような気がしていた。なるほど、そうか、だからなのか、とティエリアは納得する。


 目の前にあったはずの青い星は、いつの間にか遠くへ遠ざかっていた。「ああ、もうすぐお別れか」、とリジェネがなごり惜しそうにいう。
 ぎゅう、と、二人の間にある合わさった手のひらを握った。冷たかったはずの両方の手のひらは、僅かに熱を持ち始めていた。
「はやく消えろ」、とティエリアは言う。ひどいなあ、とリジェネは困ったように笑った。
「泣かないでよ」、とリジェネはティエリアに言った。誰がなくか、とティエリアはリジェネに悪態をついた。「僕がくるまえはずっと泣いてたくせに、よく言うよ」、とリジェネは乾いた笑いをたてる。「枕は絶対濡れてるから」、と楽しそうにそういった。
 ゆっくりとブレーキの音が聞こえ始めた。「ああ、ほら」、とリジェネがティエリアに言う。「止まってしまうね」、と呟くようにそういった。
 どこに、とティエリアは聞こうとした。けれど、ふっと、その瞬間に、手の甲を覆っていた暖かさも、外套を半分に分けていたその場所も、なくなってしまった。ぱさん、と外套が重力をうけて、シートに落ちた。
「もう消えたのか」、とティエリアはぽつんと、ひとりきりになった展望席でそう呟く。
 外套を羽織り直して、それからとまってしまった汽車の出入り口へ向かった。窓の外にはやはり前と同じように駅がある。ティエリアは出入り口のドアを開けた。
 そのまま其処に溶けてしまいそうな黒檀の海が、星屑と一緒に佇んでいた。





9. いつかあなたを忘れてしまう



 ホームへ降り立ったティエリアは目を見開いた。彼もティエリアを視認して驚きを表情にのせる。「泣くなよ」と先に釘をさされて、ティエリアは泣きません、と言い切った。ロックオン・ストラトスがそのホームに居た。
「終点なんだぜ、ここ」、とロックオンはティエリアに言った。「あとは戻るしかねえの」、と。じゃあ、とティエリアが言いかけた言葉を、ロックオンは困ったような笑顔で制した。此処に残るからと、そう言いきった。
 ティエリアはどうしてですか、と彼に聞く。夢の中だからさ、と泣きそうな顔でいるティエリアに、ロックオンはそういった。言い聞かせた。「夢の中ならば」、とティエリアは言いかける。
 だからさ、とロックオンは頷いた。困ったなあ、と呟いて、プラスチックの椅子に座る。「あれ、なんて星だったか」、と眼下にある小さな惑星を指差してティエリアに聞いた。
「冥王星です」、とティエリアはすぐに言う。「元太陽系第九惑星、今は準惑星です」、と。
 そうだなあ、とロックオンは頷いた。そこだよなあ、と。ティエリアは彼が何を言いたいのかよく分からずに、首をかしげた。
「いつか忘れるんだよ」、と、ロックオンはそう呟いた。何を、とティエリアは聞けない。「知ってるか、ティエリア。俺達が覚えていられるのはほんのちょっとのことだけなんだ。声なんて一番最初に忘れるんだよ。顔だって、いつも見てないとすぐにわからなくなるんだ。一緒に居たことは忘れないけれどいつだったかはすぐに忘れる。時間もな、色も、曖昧にしか覚えられないんだ」。
 ティエリアはそういわれて、ふと、自分が彼を、偶像じみたものに当てはめていたということに気がついた。
 容姿ならば、彼の弟であるライルは本当に似ている。けれど、あれは彼ではないと、納得したのは彼の中身が違っていたからだ。
「な、お前は俺のどこをそんなに気に入ってくれたんだ」、とロックオンが聞いてくる。ティエリアは口ごもった。伝えられない以前に、言葉が見つからなかった。貴方の生き方に、と言いかけて、ロックオンが、「でもお前は、俺がガンダムマイスターじゃなかったら、多分俺をそう気に入らなかったよ」、とそう言うので、ティエリアは言葉を無くした。
 言いたいことが山ほどあって、ずっと会いたいと思っていたのになんだ、とティエリアは自分を責めた。いざ夢の中ででも、会ってみたらこの様じゃないか、と。
 ロックオンはふ、と優しくため息をひとつ吐き出して、ティエリアに腕を伸ばし、軽くティエリアの頭を叩いた。それから、ぐしゃぐしゃ、と髪を撫ぜる。ティエリアは目を閉じてそれが終わるのを待った。
 顔を上げると変わらず、困ったような笑顔を浮かべたロックオンがいる。
「でも、顔も声も色も言葉も名前すら忘れても、居たってことは最後まで忘れないんだぜ」、と、ティエリアにそういった。
 貴方の弟が、と、ティエリアが言う。
「貴方の弟が、昔よく貴方がこうしてくれたと、同じことを」。ああ、でも、全然違う、「やっぱりあなたはあなただ」、と。
 そういうと、そうか、とロックオンは微笑んだ。あれきり別れてしまって、ずっと見れなかった笑顔と、全く同じだ、とティエリアは思った。

 ごう、と汽車が汽笛を初めて鳴らした。

「ほら、行かないと」、とロックオンがティエリアの背中を押した。ティエリアは後ろを振り返って、「ロックオン」、と何か言いかける。ロックオンはティエリアを汽車の入り口に押し込んで、「こっちにはもう来るなよ」、と笑っていった。どうして、とティエリアは聞いたが、答えは返ってこなかった。答えは解っているような気も、した。
「こっちに」、とティエリアはロックオンに言う。
「こっちに、歩いてきてください、線路があるから」。
 僕が夢から覚めてもまだあなたがここに居るのなら歩いて戻ってきてください。ゆっくりでもいいから。そして、

「いつか銀河に戻るまで」。

 ティエリアを乗せて、汽車は来た方向を逆の方向に進み始めた。ティエリアは、窓に額をつけてホームをずっと見続けていた。小さくなって、本当に、見えなくなるまで。








10. あなたが銀河に戻るまで


 夢から覚めると、寝る前となんら変わらない光景が飛び込んでくる。時計は丁度、最後に見たときから四時間半経っていた。
 ティエリアはあまり寝た気がせず、頭が抱える倦怠感にひとつため息をついた。
 夢の内容はすべて覚えている。あれだけの距離を汽車でただひたすら、見える惑星が変わるたびに訪れる誰かと話をした。
 泣いていた気がする、と思った。枕はやはり、すこし濡れていた。瞼が腫れているようで、重い。泣きすぎたか、とティエリアはまたため息をついた。
 制服に着替えて部屋を出る。ミッションプランの確認をもう一度しようと、ティエリアは歩き出した。

 端末を開くつもりが、気がつくと星を見に来ていたのは何故だろうと、ふとティエリアは思った。

 今トレミーがいる領域からは生憎地球は見えなかった。
 軌道エレベーターの伸びているあれよりかは、夢で見た何もない、ただそこにあるだけの方が、ティエリアは好きだな、と思った。
 静かだった。まだこの時間であれば、ほとんどのクルーが寝ているだろうと納得する。まだあの夢をみているのだろうかと、少しばかり気になった。
作品名:あなたが銀河に戻るまで 作家名:みかげ