嗚咽を殺して泣く子供
俺は心配していた気持ちが一変して、怒りがふつふつとわき上がるのを感じた。
「…タカ丸さん。あなた、疲労やらなんやらで倒れてたんですよ!?分かってますか!?」
「あ、うん…そうだったみたいだね…。」
タカ丸さんは俺の様子が変わったのに気づいたのか、少し戸惑っている。
「それなのに…」
そう、自分が大変なことになっていたという時にこの人は…
「どうして夢の中ででも俺の心配なんかするんですか!?そんなことより…」
「く…久々知くん…?」
「そんなことより、もっと自分を大切にしてください!!」
大声でそう叫ぶと、これまでこらえていた感情も、一気にあふれだしてしまった。
「!?久々知くん、ごめん!!」
「謝らないでくださいよ!!」
本当にこの人はどこまでも…!
「ごめんって、久々知くん。泣かないでよ…。」
その言葉と、俺の涙をぬぐうタカ丸さんの手で、俺は初めて、自分が泣いていたことに気づいた。
「君に泣かれちゃうと、僕、どうしていいか分からなくなるよ…。」
その言葉と涙をぬぐう手つきがあまりにも優しくて、俺はまた泣きそうになる。
「結局、また泣かせちゃったね…。」
タカ丸さんは苦笑いしつつ、優しくそう言う。
そう言えば俺は、この人の泣き顔も見たことがない。
「タカ丸さん…タカ丸さんは、泣きたくなる時ってありますか。」
「…え?」
一度口を開いてしまうと、次々と言葉があふれ出てくる。
「慣れない環境で苦しかったりとか戸惑ったりとか、ないんですか?あと…、その…俺からの愛情が感じられなくて不安になったりとか…ないんですか?」
さっきずっと考えていたことを口にする。
「そんなの…しょっちゅうだよ…。」
タカ丸さんは俺の言葉に驚いたように目を見開いた後、どこか大人びた笑みを浮かべてぽつりとつぶやいた。
しょっちゅうって、そんな…
「でもタカ丸さん、そんな風なこと、におわせることなかったじゃないですか!」
そうだ。タカ丸さんはいつも笑みを浮かべ、俺の前で弱音を吐いたりなんかしなかった。
「だって…だって、久々知くんの前では、かっこつけてたかったんだもん…。」
タカ丸さんはどこか気まずそうに言葉を続ける。
「やっぱり僕も男だもん。好きな人の前ではかっこいいとこ見せたいからね。…だから久々知くんの前でだけは、情けない姿見せたくなかったんだ。」
作品名:嗚咽を殺して泣く子供 作家名:knt