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moria

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折原臨也は人間を愛している。
そんな不変的なことを飽きもせず認識しながら、彼は眼下に巻き起こる騒乱を眺めていた。臨也はいつだって傍観者でありたかった。当事者として巻き込まれるだなんて、そんな愚かしい真似は真っ平御免、絶対に避けたい事態であったのだ。だのに、今現在起こっている喧騒の当事者は間違いなく彼である。
これは、デュラハンの首を目覚めさせるには戦争を起こさねば、という臨也独自の考えにより巻き起こされた騒動ではない。かといって臨也が関わっていないかという話では、臨也こそがこの動乱を作った張本人であった。臨也が誘導し、陽動し、先導した結果がこれだ。そして臨也自身が手を下さねば、この騒乱は臨也の望まない方向に転ぶだろうことは目に見えている。
「こんなに手間暇かけてるんだから、君も俺に応えるべきだよね、帝人君」
折原臨也は竜ヶ峰帝人という少年に思いを馳せた。今現在対応に追われているであろう少年。自分の出番はもう少し先だ。もう少し、彼と彼の部下らが追いつめられてから。
手にした携帯電話が微かに震える。ディスプレイには『竜ヶ峰帝人』の文字が現れる。それを黙殺して臨也はにやにや笑う。「まーだだよ、帝人君。きみが俺を頼るのは、もう少し先だ」そう言ってまだ震えている携帯電話を爪先でこつこつ叩いた。
竜ヶ峰帝人は日本人の典型ともいえる没個性な黒髪と、平凡な容姿と、平均より少しばかり強い好奇心を持ち合わせた、いたって普通の少年だった。好奇心は猫を殺す、という言葉もあるように強い好奇心は自分の身を滅ぼす。帝人もその典型に漏れず、何度も何度も殺され壊され踏みしだかれ、けれど止められない好奇心が死地へ死地へと自らを誘う。異常と触れ合い、非日常を愛でる度に、彼は無意識に自分を殺していたのだ。
「そうして少年は狂った」
恐怖に身を竦ませる度心は麻痺していく。絶望を味わう度心はそれを拒絶しようとする。挫折を知る度心は無理にでも強靭であろうとする。
平凡な少年が恐怖と絶望と挫折によって少しずつ本性を露わにしていく様に、臨也は魅かれたのだ。
あれを自分のものにできたらどんなにいいだろう。進化を進歩を永遠に求めるいきものが臨也に傾倒し臨也に微笑みかけ臨也の傍で成長を続けるのだ。何と素晴らしいことだろう!臨也は空に向けて両手を広げる。
「もっともっと、キミを見せておくれ――帝人君」

作品名:moria 作家名:nini