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moria

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「あれ、杏里先輩。委員会のお仕事ですか?」
プリントの束を持って職員室へと向かう杏里を見かけた青葉は、笑顔でそう声をかけた。その声でこちらに気付いたかのように振り向いた杏里は、ええ、黒沼くんもですか?と慎ましげに笑った。
「はい。クラス内アンケートとか……中学校じゃあるまいし、って思いません?」
一枚を抓んで持ち上げてみせる。青葉もプリントの束を両手に抱えていて、杏里と目的は一緒なのだと自然、知れた。
「そういや帝人先輩は?一緒じゃないんですね」
「竜ヶ峰君は用事があるとかで……」
先に帰ってしまいました、と杏里は言う。声に僅かながら寂しげな色が混じった。
ふぅん、と青葉は鼻を鳴らした。十中八九折原臨也のところだろう。面白くない。それでもそんな考えはおくびにも出さず、「何かあったんでしょうね」と適当に話を合わせる。職員室でプリントを渡して、失礼しました、と模範的なお辞儀をしてから、帰るか、とポケットに入っている携帯に手を伸ばした。
「あ……」
すっかり忘れていた。先日取り落とし、踏みしだかれた携帯はすっかり使い物にならなくなっていたことを。どうしたんですか?と不思議そうに杏里が聞いてくるので、「携帯、壊れてたんでした」と正直に答えた。今更隠すことでもない。
あちこちが凹んで傷ついて液晶さえ割られている。SIMカードが無事であることを祈るしかない。
「帰りに、携帯ショップに寄って帰りますか?」
黒髪を揺らして杏里が尋ねる。さてどうしよう、と青葉は思案した。どちらがより、模範的で可愛らしい後輩然としているだろう。
「そうですね、杏里先輩、どうせだから一緒に見ていきませんか?」
僅かな思案の後、青葉はそう答えた。新しい機種を見るだけでも、と誘う。
杏里はしばし悩んでいた様子だったが、暫くの沈黙の後、はい、と頷いた。
「決まりですね!」
ぱちん、と手を叩いた青葉は携帯をポケットに仕舞って、可愛らしい後輩然とした顔で笑った。

作品名:moria 作家名:nini