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moria

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物珍しげに機体を手に取ったりマジックでデコレーションされたポップを読んだりしている杏里を尻目に、青葉はカウンターで壊れた携帯を出し、新しいものと交換してもらう。幸いSIMカードにもSDカードにも傷一つなく、これならすぐ新しいものに取り換えられます、とのことだった。機種を変える気もないし、現在のものと同じ型に交換してもらう。
お金がかかるのは仕方ないことだと割り切って、ありがとうございましたーというやる気のない店員の声を背中に受けながらカウンターを離れた。
「先輩、終わりました」
慌てたようにこちらを振り向く杏里に微笑みながら、「付き合っていただいてありがとうございます」と青葉は声をかける。
いえ、とはにかみながら杏里は答える。
「青葉くん、どんな携帯にしたんですか?」
「以前のと同じやつですよ。やっぱり使い慣れてる方がいいので」
目の前で設定をいじってみせながら軽く言う。事実、それ以外に携帯の機種を選択する理由が見当たらなかったのだ。
「杏里先輩は、携帯どんなのですか?」
「私は全然、使い慣れてなくて」
ゆっくりしか打てないのだと恥ずかしげに俯く杏里に青葉が相槌を打ちながら帰路を急ぐ。まだ日は高いが、秋の日はなんとやら。油断しているとすぐ暗くなってしまう。
信号を通り過ぎる。剥がれかけた横断歩道の白線を飛び越す。ひと二人が並んで歩いてもまだ余裕のある幅の歩道をぼんやり歩く。
とりとめのない話題を振りながら、青葉の意識は折原臨也やブルースクウェアのことに向かっていった。今頃臨也は帝人に取り入る仕上げをしていることだろう。阻止したいのは山々だが、彼に関して自分がいくら訴えても帝人に届かないことはよくわかっていた。
帝人は折原臨也を信用しきっている。
青葉は折原臨也を排除したい。
横断歩道の歩行者用信号がちかちかと黄色を知らせて二人、立ち止まる。
僅かずつ橙色が広がっていく空は夜に向かっているらしかった。言葉ともつかない声が雑踏に紛れてちりちりと耳を焼く。雑音の海に浸りながら、ふと視線を巡らせる。会社帰りのサラリーマン、学生服で喋る女子、男子。杖をついたご老人、手をつなぐ親子連れ。
どこにでもいる人々。どこにでもある信号待ちの風景。
けれど、ここもまた海なのだ。ダラーズという浅く広い海。
携帯を弄る学生は?ぼーっと空を見上げるサラリーマンは?彼らがダラーズでないとどうして言い切れる。ご老人だって親子連れだって、この場の全員がダラーズかもしれない。ダラーズではないかもしれない。
ダラーズの全ての情報を開示させることができる帝人に知られずに臨也を排除するのは、ひどく骨が折れることのように思えた。
ぱっと青に切り替わった横断歩道をゆっくり渡る。急ぎ足で自分らを追い越す人々、道向かいからこちらへ向かってくる歩行者、それら全てが空恐ろしい感覚に苛まれる。
幸い、アスファルトに視線を落とす杏里はそんな青葉の様子に気づいていないようだった。バレないようにほっと息を吐く。枯れて葉を落とした街路樹。夕陽を反射させてぎらぎらと目に痛いビルの群れ。生き急ぐように行き交う車を眺めて、青葉は何かに気を取られ、足を止めた。
広い車道の向こう側、あまり広くない駐車スペースの『月極』の看板の陰に見知った顔があるのに気が付いたのだ。
ネコだ。大柄な男と痩身の男、それに小柄な女に囲まれるように立っている。どうにも不穏な雰囲気だ。周囲をさっと見渡す。他のメンバーは誰もいないらしかった。
ちっ、と舌打ちする。何故絡まれているのかさっぱりわからないが、助けを出した方が良い雰囲気だった。
「すみません、俺はここで」
杏里に軽く頭を下げる。なるべくならブルースクウェアの揉め事に彼女を引きあわせたくはない。
「え?でも黒沼くん、いつもは……」
「友達の集まりがあるの、すっかり忘れてたんです。今からでも行ってやらなきゃいけないんで」
「あ……そうなんですか」
不承不承といった雰囲気だが、杏里は疑うこともなく引き下がる。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
杏里が背を向けて歩き出したのを見送ってから、青葉はもう一度フェンスで囲まれた小さな駐車スペースを振り返った。
さきほどと状況はあまり変わっている様子ではない。
ただのカツアゲならもう見捨てて帰るか、とすら思う。それくらいなら自分で切り抜けられるだろう。が。
「あ、青葉!ちょっと助けろ!」
大声で叫ばれ、あまつさえ手も振られている。これでは逃げられない。青葉は心底厄介そうな顔をして、こちらを振り向くガタイの良い男に胡乱な目を向けた。
細身の男に後を任せて、バンダナを被った男はこちらへのしのし歩いてくる。やけに威圧感を感じる。覆いかぶさるように上から見下ろされると、人間どうしても委縮しがちだ。こんな時ばかりは己の低身長を恨んでしまう。
「てめえも仲間か」
凄みのある声。見覚えのある顔。たしかどこかで見た様な。
「ドタチン、そいつも仲間?尋問する?」
唯一その場にいた女性が気楽に問いかける。どたちん、その音に聞き覚えがある。なんとか思い出そうと記憶を探る。黄巾賊、ブルースクウェア、ダラーズ。
ああ、そうだ、門田とその一派か。黄巾賊との抗争の時にブルースクウェアを抜けたという。忌々しい兄の記憶がついでのように呼び起こされて、自然と青葉の顔に影が落ちる。
「そうだそうだ、思いだした。あなた、門田さん……でしたっけ」
警戒心にすっと目が眇められる。僅かに気だるげだった空気が瞬時にして張り詰めた。何故知っている、と言わんばかりの。
「やだな、以前お会いしたじゃないですか」
緊迫感のある空気を笑い飛ばして青葉は言う。不審な目を向けられても揺るぐこともなかった。どこまでも自分は無害なのだと、人懐っこい笑顔でアピールしている。
それに、と一拍置いて青葉は決定的な言葉を吐きだした。
「俺らなんかより、アンタの元同級生を疑った方がいいんじゃないですか?」
にい、と唇が吊り上がる。思いもよらない偶然だが、これはチャンスだ。折原臨也に一石投じる、絶好の機会。
と、がしゃん、と音をさせて青葉は背後のフェンスに叩きつけられた。まだ治りきっていない怪我に響いて、思わず顔を顰める。門田の肩越しにネコがワゴンに引っ張り込まれているのが見える。襟首を掴んでフェンスに押し付けている門田が恐ろしい形相で唸るように言った。
「お前、何を知ってる」
「話しますよ、ちゃんと、全部。俺が知ってることに限りますけど」
吊り上がった唇もそのまま。フェンスに押し付けられても抵抗すらしない。自分には危害を加えられないと絶対的に信じているような態度だった。どことなく、臨也を思い起こさせる態度にぞっとする。
「門田さん、今、ダラーズなんですよね。だったら掲示板で知ってるでしょう、先日の池袋での騒ぎ」
さりげなく門田らを知っているというアプローチを入れながら青葉は慎重に言葉を選ぶ。
先日の池袋での騒ぎ。それは勿論、青葉らが標的になった件の件である。あちらこちらで爆発や暴動が一斉に起き、警察さえも動いたという。
当然ダラーズでもそのことは話題になった。
作品名:moria 作家名:nini