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moria

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その夜は一本の電話から始まった。
冷たくも暑くもない、ぬるい湿気を孕んだ空気が窓から流れ込んでくる。電源をつけっぱなしにしていたPCが、低く唸る音がしている。
帝人はぼんやり窓の外を眺めた。今日は月が大きく見える。明るい晩になるであろう。そんな茫洋とした意識は、けたたましく鳴り始めた携帯電話の着信音によって引き戻された。はっとして机の上に手を伸ばす。電子音が耳に煩い。着信の表示には黒沼青葉、と表示されていた。
こんな夜更けに何事だろうかとおそるおそる通話ボタンを押して、耳に押し当てる。「青葉君?」自分の声が訝しげなのがわかった。
『先輩!』
叫び声に近い声が耳に飛び込んでくる。
『今、今どこですか?』
「自宅だけど、何かあったの?」
その言葉にほっとしたように電話の向うの青葉は息を吐きだした。電話の向うはやけに騒がしい。大勢の人間がいるようだ。
『襲撃です、先輩。少人数でいるところで、急に……』
その言葉を聞くや否や、帝人は即座にダラーズにアクセスした。自分が排除する、と目星をつけておいた人物のリストを開き、彼らの動きをざっと眺める。誰かとの待ち合わせ日時、ここ数日で示し合わせたそぶり、それらがないかどうか。しかし特に怪しい動きは見当たらない。ダラーズではないのだ、今回の件は。繋がったままの電話に帝人は話しかける。
「青葉君、今動かせるのは?」
『ここにいるのは俺も含めて三人だけです。今は逃げるので手いっぱいで、他の奴らを呼んでる時間はありませんでした。場所は――』
告げられた場所は帝人のアパートからもそう遠くない場所である。「すぐに連絡を回すよ」それだけ言って帝人は電話を切った。
そしていくつかのメールアドレスを呼び出すと、今しがた作成した簡潔な文面を一斉に送信した。そうしておいて、再び目当ての番号を探し出す。今度は電話だった。コール音。一度、二度、三度。出ない。何度か掛け直すも、全て留守番電話サービスに繋がり、本人が出る様子がない。「竜ヶ峰帝人です。すぐに連絡をください」とだけ留守番電話に声を残してぶつりと通話を切った。
PCはダラーズの掲示板を表示したままだ。別のタブを開く。日付、場所、それらの情報を打ち込んで何がしかの噂でも流れていないかざっとチェックする。何もない。
電話が再びけたたましく鳴る。名前も確かめずに通話ボタンを押す。「はい、竜ヶ峰です」『青葉んトコに向かってたんだけど、無理だ。こっちも襲撃されてる!』『ヨシキリ電話してる場合かよっ!』『てめえら待ちやがれ!』
何が起きている、何が。帝人は奥歯を噛みしめた。
ヨシキリは現在追われている真っ最中らしく、電話口からは時折野太く凶悪な声が聞こえてくる。青葉の元に向かわせるはずだった人員のうち何人がそこに留まっているのだろう。
「今、そこには何人?」
『五人っす。何人かはぐれた奴がいるんで、そいつらは青葉んとこ行けたか、それとも……』
その先は言われずともわかっている。青葉の元にいた奴らと、ヨシキリらの前に立ちふさがった奴ら。偶然にしては出来すぎている。明らかにブルースクウェアという組織を狙った行動に、帝人は顔を顰めた。以前いざこざを起こした黄巾賊からの復讐か、それとも他の組織か。確か粟楠会にも目をつけられていたはずだ、ブルースクウェアというのは。厄介なことこのうえない。
「相手はどれくらい?」
『10人はいるっす。面倒なことに』
こちらの倍以上だ。
「戦って、勝てる見込みは」
『50%もねーっすよ』
だろうな、と帝人も思う。相手の実力が分からないことが尚更不安を煽っていた。
ブルースクウェアというのは元々過激な集団で、喧嘩もそこそこ強い奴らが多く集まっている。それでも相手より多い手数で不意打ちのように攻撃を仕掛けるスタイルなのは、より確実性を増すためだ。危ない賭はしない。
「逃げ切れそう?」
『なんとか』
こうして会話をしているヨシキリはまだ余裕がありそうだ。
「逃げきったらメールを。僕はまた、他のメンバーに指示を出すから」
『了解』
ぶつりと切れた電話を即座に操作する。その行動には淀みがない。
コール音。一回、二回、『先輩!?』
まだ無事だった、その思いが頭を占める。挨拶もそこそこに、「そっちに誰か来た?」と訊ねる。少しの沈黙の後に、いいえ、という声が聞こえた。
「状況は?」
『近くの空きビルに逃げ込んだんですが……最悪ですね。姿が見えなくなりゃ諦めるかと思ったんですが、徹底的に探すつもりらしいです』
もうじきここも見つかるでしょう、と青葉は言う。
「今ヨシキリ君達をそっちに向かわせてる。それまで保って、青葉君」
『呼び捨てでいっすよ、あいつらのことなんて』
電話口の向こうで僅かに空気が揺れる気配がした。少しは余裕が戻ったようだ。どれくらいでしょうね、と青葉が聞く。さあ、ヨシキリ君達も追われてたからね、と言う。そこは嘘でも希望を持たせてくれないんですかと青葉が言ったので、僕は正直者なんだと帝人は笑った。


びょうびょう風が鳴っている。高速道路を走る一台の黒いバイクは風をきって走る。バイクにはヘッドライトもナンバープレートもない。艶消ししたように沈んだ黒色である。乗っている人間はネコ耳のついた黄色と黒の意匠を施されたヘルメットを被った、これまた真っ黒なライダースーツの人物だった。
後部座席にはいくつかの箱が置かれている。プラスチック製の白い小さな箱だ。
黒いバイクはエンジン音を嘶かせてひた走る。オレンジのライトをいくつもいくつも通り過ぎていった。
(まったく、臨也の依頼だなんて胡散臭いことこのうえない)
括りつけられた籠の中でごとごと揺れる白いプラスチックの箱。これらを所定の場所に置いてきてくれないかという臨也の依頼にセルティは不信感を隠せない。
怪しいものじゃないし、警察から取り締まられるような非合法なものでもない。ただ範囲が広いからねーとあの男は暢気に言っていた。
(だったら自分でやれってんだ)
くだんの男の助手が思ったことと全く同じ感想を抱くセルティ。どうやら彼に対する認識は皆一様に最低であるようだ。
それでも依頼を断らないのは、長年の付き合いという時間と自分の恋人である新羅の友人だという事実がセルティを信用させているからに過ぎない。
(あれで悪い奴じゃないんだ、ただいろいろとおかしかったりひどかったりするだけで)
臨也は信用も信頼もしていないが自分の認識は信用に値する。
さっさとこの仕事を片づけてしまおうとセルティはバイクのスピードを上げた。池袋の奇妙な喧噪は、残念ながら彼女の耳には届かなかった。


呼吸の音がうるさい。耳を塞ぐと血液がごうごう音をたてる。心臓の鼓動ですら周囲に響いているような気がする。じりじり時間が過ぎていく。階下を探しているのか、苛立ったような男らの声とばたばたという足音、けたたましく響く金属音。あれは鉄の階段を蹴る音だ。
「このままじゃヤバいな……」
大柄な男がぬっと階下から姿を現す。他の奴らはまだ下を探しているようだ。青葉らは物影に身を顰めて息を殺し、じっと大男の様子を窺った。
暫く辺りをきょろきょろと見回した大男だが、不意に響いた派手な着信音に、慌てたように携帯を取った。
作品名:moria 作家名:nini