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だから、側に居て

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熱風、渦巻く




金曜日の夜は長い。
帝人はパソコンの画面から顔を上げて、壁掛けの時計を見上げた。時刻はすでに夜十時半をまわっている。
「・・・んーっ」
伸びをして、疲れた目をぱちぱちと瞬かせ、どうしようかな、と考えた。今日は臨也が飲み会で不在なのだが、場所は池袋の近場だというから帰ってくることは分かっている。後一つ、掲示板を見回ったら先に寝よう、と何度も思ったことをもう一度思って、帝人の指は勝手に次のページへアクセスした。
十二月の空気は冷たく、暖房をつけていても広いリビングに一人ではつま先が冷える。二人で居るとそんなこと感じ無いのに、と思うと不思議だった。
空になったマグカップに珈琲を入れようか迷って、帝人は立ち上がる。通りすがりに、ふとカレンダーが目に入って足を留めた。
学校ではもう、みんな浮かれ気分でクリスマスや冬休みの話題で持ちきりだ。帝人だってそれが嬉しくないわけがないのだけれど、冬休みに入ったら実家に一度帰らなくてはならないなと思う。お盆でさえ帰らなかったけれど、今は状況が違う。年末年始ともなれば臨也だって人付き合いがあるだろうし、親族にあいさつ回りだってするだろう。そんな忙しい中、自分がいたら邪魔に決まっている。
せめて冬休みの間くらい、臨也を一人にしてあげなくては。
それに。
帝人は両手で抱えたマグカップに視線を落として、大きくため息を付いた。学校では今、三年で一番美人だと噂の女子生徒が、臨也をクリスマスパーティーに誘った噂で持ちきりだ。もちろん、どんなに野暮でもそれがただのパーティーへの招待で無いことくらいは察するだろう。彼女はつまり、臨也に聖なる夜を二人で過ごして欲しいと、遠まわしにそう言ったのだ。
それを、臨也はあっさりきっぱりと断ったと、いう。
考えて見れば教師が生徒からの特別な誘いを断るのは当たり前の話だ。特に女子生徒が男の先生を誘うとか、その逆とかは、学校がいい顔をしないに決まっている。けれどもあんなに可愛い女子生徒に、本当に臨也は少しも感心がないのだろうか?本当は、その誘いを受けたかったのではないのか?本当は、帝人が家に居るのは邪魔なんじゃないのか?
何度も思った疑問をもう一度反芻して、帝人は重い首を振る。
臨也のクリスマスの予定を確認するのが、少しだけ怖かった。一緒に過ごす相手には不自由しないだろうから、きっともう埋まっているに決まっているけれど。
もう一度大きくため息を吐いて、帝人はカレンダーから目をそらす。そのままキッチンで珈琲メイカーをセットし、スイッチを入れたところでエレベーターの音が微かに耳に届いた。
帰ってきたのかもしれない。
帝人は即座に、玄関に駆け寄る。同時に玄関のドアをガチャガチャと回す音が響いた。急いで覗き穴から外を見れば、臨也がなにか真剣な顔で車の鍵を凝視している。と、それをドアに差し込もうとして、またガチャガチャと音を立てる。
「・・・先生、酔ってるの?」
内側から鍵を回して、そっと開くと、驚いたような臨也が首をかしげて帝人を見つめた。
「酔ってる?そりゃ、酔うよ。俺だって人間だもの」
「そういう問題じゃなくて、先生、それ車の鍵」
「・・・あー、どうりで。開かないと思った」
なあんだ、とか何とか言いながら、臨也が鍵をポケットに仕舞う。大丈夫かこの人、と帝人は心配になった。とりあえず廊下で会話をするのも煩いだろうから、大きく扉をあけてスペースを作ってあげると、臨也はよたよたと玄関に入って、靴をはいたまま廊下に向けて倒れこんだ。目に見えるより、ずっと酔っ払いだ。
「・・・先生、そこ邪魔だから」
「そうだねえ、俺邪魔だねえー」
けらけらと笑う臨也を見下ろし、帝人はエイリアンでも見た気持ちになった。こんな折原臨也、間違ってもファンの女子たちには見せられないな、と思う。とりあえず扉を閉め、施錠してから、そのまま眠りこけそうな臨也に手を伸ばした。
「先生、そこ風邪ひくから、ほら、中入って」
「んー、靴脱ぐのめんどいからここでいいよ、俺コート着てるし」
「そういう問題じゃなくて、ああもう」
ほら、と帝人は玄関でしゃがんで、革靴を脱がしてやる。ついでに廊下の奥側に立って、臨也の両手を引っ張った。
「ほら、起きてせんせ、おーきーてーくーだーさーい!」
そのままずるずると引っ張ると、摩擦のせいか「いていてっ」と慌てたような声があがり、ばたばたと暴れた末に臨也は上半身をようやく起こす。
「分かった、分かったってばー、もう」
玄関で寝ることはやめてくれたようなので、とりあえずはよし。帝人はしぶしぶと起き上がる臨也のスーツについたホコリを一緒に叩いてやった。
「あ、そういえば、おかえりなさい。思ってたより早かったですね」
「んー?んー、ただいま。・・・ふふふ、ただいま帝人君」
何が嬉しいのか、にやける臨也が甘えるように帝人に正面から抱きついた。この人は酔うとこういうふうになるのか、覚えておこう。と冷静に考えつつも、抱き込まれたときにふわっと香った酒の匂いに、帝人は一瞬体をこわばらせる。
これは、大人の匂い、だ。
「珈琲の匂いがするー。帝人君、俺にもー」
「はいはい、わかりましたから放してください、先生お酒臭い」
「お酒飲んだしねー。お願い」
あっさりと帝人を放して、ついでによたよたとリビングのソファにたどり着いた臨也は、そのままどさりと座り込んでネクタイを緩める。
「コートと背広はシワになるから、ハンガーですよ!」
「大丈夫ー」
「もー、何が大丈夫なのかわかりません!」
ほら珈琲飲んで!とマグカップを突き出し、臨也が脱いで適当に放り投げたコートと背広を拾って、帝人はブツクサと文句を言いながらとりあえずそれを椅子の背もたれにかけた。
恨めし気に臨也を振り返ると、にこにことこちらを見つめているその顔とばっちり視線が合う。
「・・・なんですか?」
「いや、甲斐甲斐しいよねえ、帝人君。俺の奥さんみたい」
「奥・・・っ!?」
何だ、一体なんなんだこの思考回路は。酔っ払いって、みんなこうなのか!?
帝人は自分に落ち着け、と言い聞かせながら、とりあえずこの酔っ払いに水を飲ませようと結論付けた。さっき出たばかりのキッチンへと再び向い、グラスに水を注ぐ。ソファの上で寝そうになっている臨也にそれを差し出し、珈琲は口をつけていないようなのでもらおう、と自分の方に寄せる。
隣りに座った帝人にもたれるようにして、臨也が大きく息を吐いた。やっぱりお酒臭くて、臨也が大人なんだということを強調しているみたいで、帝人はなんだか複雑な気持ちになる。泣きたいような、叫びたいような、もどかしさ。
「・・・いつも、こんな酔うんですか?」
ぐったりしているように見える臨也に尋ねれば、彼はんー、と低く肯定とも否定とも取れるような声で応じた。それから帝人が手渡した水を一口、ゆっくりと飲む。
はーっと息を吐き、それでも若干はシャキッとしたようで、ようやく帝人から離れた。
「波江がひっどいの!」
そしてその唇が、そんなことを言う。
「なみ、え?」
「もう俺飲めないっつてんのにさー、もう最悪。次から次からいつの間にかグラスにつぐし・・・あーもう、日本酒とビール混ぜちゃだめだよねほんと」
作品名:だから、側に居て 作家名:夏野