angel lamp2
紅茶とケーキをトレイにセットし、居間に持っていく。
開けっぱなしの扉から中を覗けば、案の定、彼女は、窓際の安楽椅子で眠っていた。
足音を忍ばせて、居間の中に入り、テーブルの上にトレイを置いて、そろりと離れる。
寝ているのなら、丁度いい。書斎の掃除をしてしまおう。
眠っている彼女に背を向けて、僕は書斎に向かった。
重い扉を開けて、書斎に入る。
中は、壁一面が本棚となっていて、ぎっしりと本が詰められていた。
背表紙をざっと眺めても、僕には判読できない文字ばかり。
机の上には、何冊かの本と、小さなガラスの水槽があり、中は液体で満たされている。
その中に、蛇らしき生き物が、とぐろを巻いて眠っていた。
使い魔か・・・精霊か・・・召喚魔法の研究の途中かな。
何にしろ、作業の邪魔をするとろくなことにならないのは、マスターに教えられている。
机の上には触らないことにして、空気を入れ替えようと、窓に近づいた。
窓を開けようと、留め金を外した時、突然、白い顔が現れた。
!?
のっぺりとした顔に、目と口だけが、三日月形に黒く開いている。
驚いて思わず飛び退き、腰を机に打ち付けてしまった。
「つっ!!」
勢い余って、机の上に倒れこみ、はずみで本や水槽を払い落してしまう。
「しまった!!」
声を上げた時には遅く、水槽は絨毯の上に転がって液体をまき散らし、中で眠っていた蛇が、のっそりと起き上がった。
蛇の体の下に、不釣り合いな四本の足が見えた時、恐怖のあまり、固まってしまう。
ミズチだ。
ずーっと昔、マスターが、「決して触らないように」ときつく言っていた、水の精霊。
猛毒の霧を吐き、大人の男さえも一飲みにしてしまうのだと、教えられた。
ミズチは、倒れている僕には目もくれず、驚くほど素早い動きで、窓の隙間から外に出てしまう。
すぐに、甲高い子供の悲鳴が響き渡った。
作品名:angel lamp2 作家名:シャオ