angel lamp2
慌てて起き上がって、窓に駆け寄る。
全速力で駆けて行く子供達と、追いかけるミズチの影が、生垣の外へと消えていった。
思わず、その場にへたり込む。
どうしよう。どうしよう。
それだけがぐるぐる回って、何も考えられなかった。
震えながら頭を抱えていたら、誰かの手が肩に触れる。
「カイト」
思わず飛び上がって振り向くと、彼女が心配そうに、僕を覗きこんでいた。
「悲鳴が聞こえたような気がして・・・どうしたの?」
「あ・・・」
僕は、震える指で、床に転がる水槽を示す。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
どうしよう。どうしよう。
実験の邪魔をしてしまった。恐ろしい魔物を逃がしてしまった。
彼女は、僕の示す先を見た後、ゆっくりと視線を戻して、
「どうしたの?」
「窓に・・・顔が・・・お、驚いた拍子に、机に・・・ぶつかって・・・」
怖い。怖い。怖い。
彼女は、きっと怒るだろう。
怒って、僕を壊すかもしれない。
彼女の指が、僕の頬に触れる。
思わず身を竦めた時、囁き声が聞こえた。
「怪我は、ない?」
「・・・え?」
驚いて目を見張ると、彼女は、慌てて手を引っ込め、
「あ・・・ごめんなさい。どこか、痛むかと思って」
そう言って眼を伏せ、自分の右手を、左手の下に隠す。
「ごめんなさい。ここは片付けておくから・・・」
彼女の視線が、促すように、扉へと向けられた。
意味が分からず、彼女を見つめていると、ぎこちなく微笑んで、
「気にしないで・・・慣れているわ」
「どういうことですか?」
僕の言葉に、彼女は目を伏せて、
「・・・あなたに、触れてしまったから」
その言葉に、思わず、彼女の右手に視線を向けてしまう。
彼女は、そっと手を背中に隠すと、
「洗面台はお湯が出るし、お夕飯までは、まだ時間があるから・・・気にしないで」
「・・・・・・・・・」
自分で、自分の顔が赤くなるのが分かった。
言葉が引っ掛かって、上手く出てこない。
「・・・・・・僕は」
「大丈夫だから」
微笑む彼女の顔を見ていられなくて、僕は、書斎から逃げ出した。
作品名:angel lamp2 作家名:シャオ