angel lamp3
まるで、この瞬間、時が止まったような気がした。
何も聞こえない、何も見えない。
先ほど聞こえた言葉だけが、頭の中で反響している。
「それじゃあ、失礼するよ」
彼が、僕の手から手綱を取ったところで、我に返った。
二・三歩離れて、彼女の後ろに立つ。
「じゃあ、また」
「ええ、気をつけて」
僕に見えるのは、彼女の後姿だけ。
今、彼女は、どんな顔をしているのだろう。
振り向かせたい衝動を抑え、馬車が走り去るのを見送った。
馬車の姿が見えなくなっても、彼女は、そこから動かない。
痛いほどの沈黙の中、しばらくして、彼女が口を開いた。
「中に入りましょう、カイト?少し冷えてきたわ」
振り向いて、いつものようにふわりと微笑む。
胸元に揺れる青いペンダントを、衝動的に掴んだ。
「・・・カイト?」
いぶかしげな声に、我に返る。
「あ・・・すみません」
ぎこちなく手を離すと、彼女は微笑んで、
「大丈夫よ。少し驚いただけ。中に入りましょう?」
そう言って、彼女は、ゆっくりと玄関に向かった。
反射的に、彼女の腕をつかむと、
「さっきの言葉、どういう意味ですか?」
「え?」
「貴女が、本来のマスターだと」
「あ・・・」
僕の言葉に、彼女は眼を逸らすと、
「・・・勘違いしているのよ。あなたのマスターは、彼女。私ではないの」
「どういうことですか?」
彼女は、黙って俯く。
僕は、掴んでいる手に力を込めて、
「教えてくださいっ!何故、そんな勘違いをするのですか!?」
「・・・痛いわ、カイト」
囁くような声に、はっとして手を離した。
「・・・ごめんなさい」
「大丈夫よ。あなたのほうが、驚いたでしょうから・・・」
彼女は、一旦口をつぐんでから、ふうっと息を吐いて、
「・・・あなたを設計したのが、私なの」
作品名:angel lamp3 作家名:シャオ