angel lamp5
少年と二人、無言で彼女を待っていたら、程なくして、彼女が戻ってくる。
手に持った瓶の中で、茶色の液体が揺れていた。
「これを、一日二回、彼に飲ませてあげて。熱が下がっても、すぐにはやめないでね。食欲が戻って、食べられるようになるまでは、続けて頂戴」
「あ、あの、ありがとうございます!」
少年は、慌てて立ち上がると、ポケットの中に手を入れて、
「あの、僕、あの、これしか、なくて・・・」
テーブルの上に、バラバラと硬貨を広げる。
「ぼ、僕のお小遣い、全部・・・た、足りない分は、後で必ず、持ってきます!!」
僕が口を開く前に、彼女は、すっと手を出して、
「・・・そう。なら、これがいいわ」
硬貨を一枚取り、立ち上がった。
「あ、あの!」
「カイト、お客様がお帰りになるそうよ。送ってあげて」
「・・・はい」
そう言って、彼女は台所を出ていく。
気まずい沈黙の中、テーブルの上に広げられた硬貨を集めて、少年に渡してやる。
「あの・・・」
「いいから。早く、友達のところに行ってあげな」
僕の言葉に、少年は、泣きそうな顔で頷くと、硬貨をポケットにしまった。
「あの、僕一人で帰れますから・・・レディに、ありがとうございましたと、お伝え下さい」
「分かった。気をつけてね」
少年は、帽子をかぶると、最後に頭を下げてから、小走りで外に飛び出していく。
ティーカップを片づけながら、彼に、紙のお面を返し忘れたことを、思い出した。
一瞬、呼び戻そうかと顔を上げたけれど、すぐに思い直す。
片づけを終えて、僕も台所を出た。
ベールを外し、居間の椅子に座っている彼女に、そっと近づく。
僕に気づいた彼女が、顔を上げて、
「カイト、彼はもう帰ったの?」
「はい」
彼女は、手の中の硬貨を、僕に見せて、
「本当は、貰うべきではないのでしょうけれど・・・」
「お茶を、お持ちしましょうか?」
僕の言葉に、彼女は、ぎこちなく微笑んで、
「ええ。ありがとう、カイト」
お茶の支度をして、居間に戻ってくると、彼女が椅子に座ったまま、うたた寝をしていた。
手の中にあった硬貨が、足下に落ちている。
硬貨を拾い上げ、そっと窓を開けた。
腕を振って、硬貨を遠くへ投げ捨てる。
音を立てないよう気をつけながら、窓を閉めると、彼女が微かな声をあげた。
「ん・・・カイト?」
「はい。ここに」
「ごめんなさい。いつの間にか、眠ってしまったみたい」
「お疲れなのでしょう。今日は、早くお休みになって下さい」
僕の言葉に、彼女は微笑んで、
「そうね・・・。ありがとう、カイト」
作品名:angel lamp5 作家名:シャオ