Second Doll
ふと、微かな物音で赤林は目を覚ました。ヤクザな世界に年若い頃から身を置いていた赤林は、常に危険と隣り合わせな生活をしていた。眠ることは眠っているが、神経のどこかが起きた状態での睡眠が癖になっている。
さり気なく寝返りを打って周囲の気配を探る。動きがあるのは壁を一枚隔てた向こう側、リビングからだ。
まさかミカドが、と思ったが、心のどこかで納得もしていた。そういう商売をしてきたのだから仕方がない。恨みを買うのが仕事みたいなものだ。
ヒタヒタと素足でフローリングを踏む音がし、用心深く寝室のドアが開かれる。するするとベッドの傍まで来ると、その人物は立ち止まって動かなくなった。
ここで赤林は、あれ?と思った。ヒットマンならばサッサと武器を取り出して仕留めているだけの時間が充分にあったのに、動きがない。そして肝心の殺気というものが、まったく感じられないのだ。
これは少し違うんじゃないか、と赤林が思いはじめたところで、ゴソゴソとその人物は動き出した。再び警戒した赤林だったが、わずかに聞こえるのが衣擦れの音で、パサリと床に布が落ちる気配がしたところで、パチリとベッドサイドの灯りを付けた。
ぼんやりとしたオレンジの灯りの下で見えたのは、赤林のパジャマのシャツのボタンを外しているミカドの姿だった。
しばらく互いに無言で見つめ合う。
「・・・・・なに、してるのかな?」
思わず問いかけた赤林に、ミカドは不思議そうに首を傾げた。
「こういうつもりで連れてきたんじゃないんですか?」
そう言うと、前で留めているボタンを全て外し終えると、スルリと肩からシャツを落とそうとする。
「ちがうから!そんなことさせるために連れてきたんじゃない!」
素早く起き上がると、落ちそうになっているシャツをミカドに羽織らせる。ついでに前のボタンも全部留めてやる。下を見ると、すでにズボンは穿いていない。赤林は頭を抱えたくなった。
そのようすをパチパチと瞬きをして見ていたミカドは、きょとんと赤林を見る。
「いいからもう寝ろ、な?」
子どもに言い含めるような口調になったことは否めないが、諭すように赤林はミカドの肩に手を置く。
「あ、じゃあ添い寝します!」
「いや、そういうのも求めてないから」
「そう、ですか・・・」
ショボーンとでもいうのだろうか、捨てられた子犬のような目になったかと思うと、ミカドは目を伏せた。長い睫毛が影を落とし、大きく開いた襟元から見える白い首筋から鎖骨のラインが妙になまめかしい。
「あー、じゃあもう良いから一緒に寝るか」
パッとミカドの顔が明るくなる。こんなことで喜ばれても困るのだが、と赤林は内心で苦笑いをする。
いそいそと続いて布団に入ってこようとしたミカドに赤林は言った。
「下のズボンは穿け」
「あ、はい……あれ?どこいった・・・?」
「ったく・・・言っとくが、ただ寝るだけだからな」
「はい!」
作品名:Second Doll 作家名:はつき