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ピーターパンシンドローム

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手を伸ばして震えている小さな身体を抱き寄せると、一瞬ビクリとするも大人しく腕の中に収まった
身じろぐ事もしなければ、拒絶をする事も無い
本当、なにがあったのだろうか

アーサーは少年を抱きかかえる
ふわり、と持ち上がった身体にまだ小さいな。などと思いながら少し前と比べて重たくなっている事に気が付く
(これが成長、なのか)
この位の歳だと、自我の発達に追いつけない心が迷走する。と昔読んだ養育書に合った気がする
(アル、もそうなのか?)
腕の中の少年は未だ俯いたまま
顔を上げ、いつものように笑顔で翡翠を見つめる姿は無い

長いような、沈黙
ソファーに移動して膝の上に座らせる
それでも少年は俯いて、涙こそ出していないが纏っている雰囲気は悲しげで儚い
「アル?」
「アーサー……」
ぎゅぅ、と胸辺りに温もりを感じる
カタカタと震える姿はやはりいつもと様子が違う
怖い絵本を読んだときも夜寝れなくてアルは泣きながらアーサーのベッドに来る
だけど今日はそういう感じではなく、純粋な怯えに思えた
「アーサー、痛いのか……?」
話の脈がいつも以上に読めない。
うるうると潤んだ瞳はしっかりとこちらを見ている
相変わらず、ぎゅうとしがみついたままだけれども
「へ?」
「アーサー、傷が、いっぱい…で、っ」
またしゃっくりを上げ始めた腕の中の少年
さっきよりも抑えが利かないのか、利かせる気が無いのか、真意はわからないけれど大きく泣きはじめてしまった
「傷?」
自分は国で、戦争や小さな紛争にも耐えなければいけなかった
それで一般の人間より確かに生傷が絶えない生活をしている
しかも目の前の小さな命も守っている。だから身体は傷が癒えないうちに新たな傷を刻んでいた

作品名:ピーターパンシンドローム 作家名:紗和