ピーターパンシンドローム
「痛い?」
またうるうる、と瞳が揺らぐ
(涙の原因はこれか)
「痛くねぇよ。大丈夫だ」
ぽんぽん、と頭を撫でる
それに驚いたのか、安心したのか、胸元を濡らしていた涙は止まっていた
「ほ、んとう?」
いつもよりも弱気に、みつめる揺れたままのアクアマリン
もう一回、言い聞かせるように「大丈夫だ」と笑うとふにゃりとアルも笑った
「大人に、なりたくないんだぞ」
彼は続ける
ふにゃりと笑った顔から一変して、また落ち込んだ。そんな表情
握り締め、白くなった手の平
爪がすこし食い込んで赤く小さな半月を残していた
「ん?」
疑問に、思う。
ヒーローになりたい。俺はヒーローだ
そう子供ながら思い、大人になることを望んでいた昨夜
彼の話に脈絡が無いのはいつものことだけれど、さきほどの様子といい、何か今日は違っている
傷を見ただけで、ここまでの反応をするのだろうか
「アーサー…」
小さな拳が開かれて、頬を撫でる
少し高い体温、柔らかい手の平、安心する温もり
その心地よさに目を細めた
「アーサーを、」
途切れ途切れに紡がれる言葉
「傷付ける、ような…… 大人には、なりたくないんだぞ」
作品名:ピーターパンシンドローム 作家名:紗和