ピーターパンシンドローム
「アーサーあああああ!!!!」
どたどた、と部屋をかけ回る小さい子供
あれから時がすぎて、アルは大きくなり、自分の手から離れてしまった
もう、戻らない夕日
「なんだよ、ピーター!」
きゃっきゃ、きゃっきゃと騒いでいるあの頃のアルと同じぐらいの少年
ピーターはアルよりも騒がしい
イギリス沖に出来た小さな、小さな人工要塞のような島に、彼は生まれた
イギリスに覚えが無かったけれど、こうして慕われるのも悪くはない
生まれてからのピーターをなんだかんだ言って育てていたのはアーサーだった
「この本、読むでありますよー!!」
手にもった少し大きく、古い絵本
こんな書物あったか、と記憶を巡らせてみても覚えが無い
「そんな本、あったか?」
「おじいちゃんになったですか?」
ププッ、と笑うピーターにゲンコツひとつ
ガッ、と音を立てて頭に当たったそれはいくらかまだ優しい
衝撃で落とした絵本を拾う
見た目どおり少し紙が古く、ところどころ変色している
けれど保存方法がよかったのか紙の変色以外、変わっているところは無かった
作品名:ピーターパンシンドローム 作家名:紗和