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存在理由 (コードギアス/朝比奈)

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 そのまま顔を覗かせた老人と言葉を交わし、彼らの部下らしい者に従って移動を開始する。この距離では彼らの会話は聞き取れなくて、そのまま移動していくのを眺めているだけになる。
 どうやら侵入者ではないようだし、これ以上尾行する必要はないだろう。
 そもそも就労時間は終わっているのだから、そろそろ帰っていいはずだった。そう思って彼らから離れようとした瞬間、先ほど彼らを尾行していたもう一人の者の姿を見つけた。
 相変わらず追うものに夢中になりすぎてこちらには気づいていない。その手には既に抜刀した軍刀が置かれていて、いかにも温和な状況とはいいがたい雰囲気をかもし出していた。
 藤堂は、彼には気づいていない様子だった。
 ちっ、と舌打ちをして彼らを追う。追う必要も義務もないと心が言っているのに、体が勝手に動いていた。
 正直をいうと、ここから実はきちんとした記憶が存在しない。
 曖昧な記憶を紐解けば、藤堂たちを尾行する追跡者を彼らに伝えるタイミングを図りながら追いかけた。自然と腰の軍刀に手が伸びてしまったのは、相手が抜刀しているためかもしれない。だが相手に乗せられて抜き放つ愚は起こさず、極めて冷静を装って追いかければ、不意に藤堂が立ち止まって視線を漂わせる。
 その視線はどこを見ているのか明らかではないが、少なくてもこちらや侵入者に向けられたものではなかった。そのぽっかりとあいてしまった隙に、ちっ、と僅かに舌打ちして視線を追いかければ、つい口元からため息が出てしまいそうな集団を見つけてしまった。
 なんだ、あれ。
 集団というには数はそうは多くない。五人か六人か、その程度だろうか。だがそれらが一斉に藤堂を目指して刀を振り上げながら雄たけびを上げれば、誰でもいい加減深くため息を付きたくなる。まあ、武に余裕がなければため息では済まないのかもしれないけれど。
 武はあっても藤堂は丸腰だった。加えて杖まで付いてる老人は戦力外というかむしろ足手まといだ。それでも女がどの程度かは分からないが、長身のものと体躯の良い男、それにあと数名の者がいて戦力的には五分五分かやや劣る程度。だが藤堂が連れている者だと言う事を差し引きすれば、釣りが出るほどに余裕だろう。これなら追跡だけしてる自分が出る幕はないだろうと鞘から抜きかけた刀を戻す。
 案の定、藤堂と老人を庇うように展開した者たちは襲い掛かってきた暴漢に屈することなく対峙した。あっさり打ち返すという程ではないが、いずれの勝敗は目に見えている。
 そのことを察したのか藤堂が老人を庇いながら戦局を抜け出した。
 またそれをサポートする例の三人の動きはすばらしく連携が取れていて、特に侮っていた女の人は性別など関係ないのだという見本みたいな人だった。その鮮やかというしかない剣技はこっそり参考にさせてもらおうと思った。
 あっという間にゴタゴタを抜け出した藤堂は、老人を労わるように何事か声をかけ、それから酷く厳しい顔をこちらに向けた。
 こちらに、というと語弊がある。
 ようはあの襲撃者達のせいでガードが外れた藤堂を狙った追跡者が動き出したのだ。
 藤堂は丸腰であり、老人を庇っても居る。とっさに老人が投げた杖を利用して最初の一撃を防いだものの、老人の杖はその衝撃で折れ、既に使い物にならない。
 さすがにこれはまずいと飛び出して追跡者との間に割り込む。不意をつかれた追跡者は最初こそ虚をつかれた顔をしたものの、そのまま重ねた刀を力任せに押付けてきた。
 正直言うと鍛錬を怠っていたと思う。
 スピードでは付いて行けるその凶刃が、力任せではとてもかなわない。元々の力の差はあるだろうが、今までならそれを補うように戦えたはずだ。こんな柔では問題にもならない。
 どう戦っていたのか、そう、こんな力と力の比べ合いなど自分はしなかったはずだ。
 力押しの一手が僅かに緩んだ瞬間、そのまま相手の力の向きに合わせて刀を引くと同時に身体ごと下がる。急に抵抗がなくなったことに力を制限しきれなくなった追跡者のバランスが崩れる瞬間を見逃さずに間を開く。
 本来ならこのタイミングで相手を倒したかったが、相手も相当な手練れのようでそれはかなわなかった。
 情けないことにすでに息が上がっている。だが相手はこちらなど見向きもしないように離れたのを良いことに藤堂へと飛び掛る。もちろん回り込んで再び刀をあわせて制しながら、藤堂へと早く逃れるよう目配せをした、その瞬間だった。
 追跡者が持っていたのは軍刀だけではなかった。
 先ほどあわせた刀が僅かに力が緩んだのは、きっとこの小刀を取り出そうとしたためだったのだろう。
 自分の顔が酷く熱い。二刀流を許してしまう自分の力のなさと甘さに吐き気さえしながら、分散されたことで緩んだ刀の力を押し返す。
 ボタボタと音を立てながら顔から滴り落ちる赤の色をしたものを無視して、押し返したことでバランスを崩した相手に襲い掛かる。風を切るたびに視界が朱に染まって見辛くて仕方がなかったが、不思議と痛みは感じなかった。
 たぶん。痛みなどこの顔に走る熱さのせいで見失っていたのだ。
 遠くで藤堂の声が聞こえた気がした。
 振り切った先に追跡者の絶望が見え、弾かれた刀が空を舞って行くのが知れた。
 耳を裂くように放たれた悲鳴は、それが終わりを告げるためのものだとは判らなかった。
 切っ先を失ってしまった軍刀をそれでも防御に構えた先に、崩れ落ちる追跡者とどこからか手にした軍刀を振るった後らしい藤堂の姿が見えた。
 覚えているのは、その厳しい表情をした藤堂がそのまま何事か叫ぶように声をかけようとしていた処までで、混濁した意識はそのまま赤い色に染まって消えた。






 後々聞いた状況から考えると、追跡者に気づかなかった藤堂を庇って凶刃に立ち向かい、怪我をしたということなのだろう。もしかしなくても命の危険さえあった状況から藤堂が救ってくれたのは、なんとなく覚えている。
 一言で言えばそういうことらしく、意識を取り戻したときは顔が痛くて仕方がなかった。
 だから、この状況はたまたま。偶然。なんとなく、なのだ。
 人生最大のピンチを救ってくれたというか勝手に救われた気になったのは、厳しい視線と似合わない笑顔を垣間見せた男だった。
 よくよく考えてみればお節介に手を出して返り討ちにあっただけなのだが、それでも藤堂はすっかり恩を着てしまったらしく、入院中に何度も見舞いに来た。
 何ヶ月にも及ぶ入院生活は、顔にこれでもかというほど凄みを与えてくれる傷を作り、一応まだ軍人では居れたけれど、先のことは命を含めてまったくわからないという状況のまま、退屈この上なく過ぎて行く。さっさとシャバに出たいところだが、担当医は決してうんとは言ってくれなかった。
 もっとも相当に酷かったので仕方がないのかもしれない。
 裂傷を負った顔はどうでもいいけれど、出血が酷くて三途の川を何度か往復してしまったらしい。自分のことながららしいというのはどうにも腑に落ちないが、覚えてなというか意識がなかったのだから仕方がない。