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エトワール詰合せ

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『共犯者』




「アリオスさん。私…あなたのことが好きです」










「…という夢をみたんだ」

「ふーん、よかったじゃない。女の子にもてて」

「あのな。あんな乳くせぇのにもてたところでろくなことないだろ」

「あら。陛下だって大して変わらないわよ。大体、宇宙にサクリアを流すなんて、陛下とエトワールにしか出来ないことだもの。この宇宙に気に入られた二人が似ていてもおかしくないでしょう?」

「守護聖やおまえにだって出来るだろ」

「出来ないわ。
 守護聖も、私も、そして女王候補も。サクリアを流すことが出来るのは陛下のお力があってのことだもの」

「それならエトワールも同じだろ。サクリアの琉現をしたのはお前なんだから」

「いいえ。あの頃、陛下のお力は弱くなっていた。陛下に余計な負担をかけるわけにはいかなかったの。
 だから、私がしたのは指標を示しただけ」

「どういうことだ?」

「エトワールには…いいえ、あの石版には、というべきかしら。単独でサクリアを集め、流すことができるのよ」

「…よくわからねぇな」

分かりたくない、の間違いでしょ、と思ったが、レイチェルは口に出さなかった。

「エトワールには宇宙を作り変えることが出来るの」

「この宇宙の中心は陛下。宇宙を支えているのも。それに変わりはないわ。
 けどあの子がその気になれば、自由に宇宙を作り変えて行くことが出来る。
 …陛下のご意志とはかかわりなく、ね」

「だから、彼女を『聖天使』にしたの。
 敵に回すわけにも、敵に取られるわけにもいかない存在だから」

「…んなの、あいつを元の宇宙に返しゃいいことだろ」

「そうね。神鳥の宇宙に帰れば彼女はあくまで一般人だわ。聖地の時間にすれば呆気ないほど簡単に死んでしまう。
 けれど、この宇宙は彼女の存在を知ってしまったの」

「………?」

「彼女が死んだ後、この宇宙に転生してこない保障はなかった、ということよ。
 そして。
 たとえ転生したとしても、彼女はエトワール。
 その意味。分かるでしょ」

「…だから、飼い殺しにするために、『エトワール』に任命したっていうのか」

「人手不足なのも、彼女を気に入ったのも本当よ。
 事実、彼女はよくやってくれているわ」

「『よくやってる』 …ね」

アリオスは自嘲気味に笑った。

「人は変わる。あいつみたく、真直ぐなのは特に、とんでもない変わり方をすることがある」

レイチェルはアリオスを見た。
その目に後ろめたさはなかった。

「あいつが女王に背いたら、俺が殺す、と、いうわけか」

『魔天使』という位置。
必要のない対の立場。

「強制するつもりはないわ」

だがその時、アリオスは躊躇わないだろう。

「オレにいうなよ」

『そんなことを』と、アリオスは言う。
だが、

「『共犯者』になってくれるって、いったじゃない」

あの日。
『宇宙』に彼女を喰い殺されると悟った夜。
一度膨張を始めた宇宙は担い手の思惑を外れ、急激な変化を見せた。
大量のサクリアを必要とし、その勢いは女王の脳髄を焼き、彼女を昏倒させた。
研究所の人間は大騒ぎをしたが、それでも彼らには本当の恐怖は分からなかっただろう。
あのまま放っておけば、女王は…アンジェリークはサクリアを宇宙に喰わせるためだけの入れ物になりかねなかった。
生涯眠ったまま…。
夢の中で宇宙を育てる女王に。

あの夜。
昏倒し、目を見開いたままピクピクと痙攣するように身体を震わせ、サクリアを宇宙に供給し続けたアンジェリークと再会したアリオスは、腰に佩いた剣に手を伸ばした。
このまま宇宙に喰われるぐらいなら、一思いに彼女を殺してしまうつもりだった。
それを止めたのが、レイチェルだ。

まだ『希望』はあるのだ、と。
彼女のために『人』であることを捨てる覚悟はあるか、と。

即答など、出来るはずはなかった。
アリオスにとって彼女は喉の奥にひっかかった小さな棘に過ぎず、離れていさえすれば忘れていられる。そんな存在だった。
日々のことに没頭してさえいれば、彼女を騙したことも、彼女との優しい思い出も、全てが記憶の果てにある幻のようなものだ。
罪悪感などない。それは『自分』ではないのだから。

気がつくと頷いていた。

『…泣かないでよ。私が泣いてないのに、あんたが泣くなんて、ずるいじゃない』

泣いている自覚はなかった。
気にしている余裕もなかった。
アンジェリークを寝台に運び、まるで、水揚げされた魚のようにぴくぴくと震え続ける彼女の悲惨な様子を目に焼き付けた。

そしてレイチェルの指示の元、その日、アリオスは生まれたばかりの惑星を滅ぼした。


『庭と一緒よ。綺麗に花を咲かせるためには、無駄に養分を吸い取る蕾や虫のついた葉っぱを落とさなきゃならないの。
 …せめて、守護聖さえいてくれれば』

その先を、彼女は口にしなかった。

彼女も、アリオスも。月を欲しがる子どものように、夢に浸れるほど子どもではなかった。



作品名:エトワール詰合せ 作家名:みと