エトワール詰合せ
『研究員』
「あーぁん、もう! またダメかぁ」
レイチェルは軽くキーボードに両手を叩きつけ、仰のいた。
「主任。昨日も徹夜でしょう。根の詰めすぎはお肌によくありませんよ」
すぐ近くで声がかけられる。
視界に広がる天井から視線を動かすと、見慣れた研究員がマグカップを両手に穏やかな表情でレイチェルを見ていた。
「嫌なコト言わないでよ」
レイチェルが女王候補になる前から顔見知りの研究員だ。
抜きんでた派手さはないが優秀な男で、神鳥の宇宙でも王立研究院での将来が有望視されていたというのに聖獣の宇宙が誕生した時こちらにやって来た。最古参の一人だ。
レイチェルは彼が好きだった。一緒に居るとほっとする。
「あとちょっとなの。ねぇ、手伝って!」
猫のように傲慢に可愛くお願いすると、彼は少し赤くなって眼鏡を押し上げた。
「仕方ありませんね」
あの頃は、まさか彼が守護聖候補だとは思いも寄らなかった。
切望し続けた守護聖の誕生がレイチェルの淡い想いを砕くことになるとは。
「レイチェル様?」
ぼんやりと窓から見える研究所を眺めていた女王補佐官は、少女の声にはっとして振り向いた。
「ごめんなさい。説明が途中だったわね」
苦笑して片目を閉じてみせ、レイチェルは分かりやすく少女に宇宙の在り方を説明していった。
心の奥に冷たい想いを閉じ込めて。
この少女の存在が彼女の最愛の親友を救う、ただ一つの、希望なのだ。