angel lamp6
書斎の扉をノックすると、すぐに彼女の声がした。
「どうぞ」
お盆を持って中に入ると、彼女は、ペンを走らせる手を止めて、
「ありがとう、カイト」
「いえ。ここに置きますね」
彼女の手元に、書きかけの便せんがあるのが、目に入る。
僕の視線に気がついた彼女が、微笑んで、
「あなたのマスターに、返事を書いていたの。あなたのこと、気にかけていたから」
「そうですか」
そんなこと、あるはずがないのに。
ありえないことだと、分かっているのに。
もしかしたら、一言くらいは、触れていてくれたのかも知れないと。
「あなたも、会いたいでしょう?」
その言葉に我に返り、慌てて顔を引き締めた。
「そう・・・ですね。懐かしいと・・・思い、ます」
「楽しみね」
そう言って、微笑む彼女の顔から、視線を逸らす。
「あの・・・先ほど、配達の方が来ました」
「そう。ありがとう」
やはり、彼女には、言っておくべきだろう。
僕は、先ほど聞いた話を、彼女に繰り返した。
彼女は、黙って耳を傾けた後、
「それじゃあ、あの子の友達は、熱が下がったのね?」
「え?あ・・・だと思います」
「良かった」
そう言って、ふわりと微笑む。
「え?あ・・・」
「ちゃんと飲んでくれるか、心配していたの。本人が来たわけではないし、親からすれば、得体の知れない相手からの薬なんて、心配でしょう?」
「あの子が、上手に説明したのね」と笑う彼女に、
「分かって・・・いたのですか?最初から、こうなることは分かってて、薬を渡したのですか?」
誤解と偏見から、噂が立つことを、最初から分かっていたと?
彼女は、僕の言葉に、寂しげに笑って、
「ええ。珍しくないことだから。「魔導士」という存在は、奇異の目で見られるものよ。特に、私は」
彼女の言葉に、自分で自分の顔が赤くなるのが、分かった。
「いいの、カイト。気にしないで。それが普通なのだから」
「・・・すみません」
「気にしてないわ」
彼女は、机の上を片づけ、
「それに、ここも、もうすぐ引き払うつもりだから」
「え?」
そんな話は、初めて聞く。
僕が問いかける前に、彼女が口を開いた。
「私が手紙を書いたら、カイトは返事をくれる?」
!?
「あ・・・ごめんなさい。変なことを聞いてしまって。そんなことを言われても、困るわよね」
「え・・・あの・・・」
「いいの。忘れて。一段落ついたから、食事にしましょう?」
そう言って微笑む彼女に、何も聞き返せなくなる。
僕は頷いて、台所へ向かった。
作品名:angel lamp6 作家名:シャオ