骸
「思ったより元気そうだねぇ」
残念残念、などと呟く、その一挙手一投足が腹立たしくて、すぐにでも殴り飛ばしたいのを我慢して睨みつける。臨也はそれを気にする風でもなくにやにやと笑いながらこちらの様子を窺っている。
「やっぱりてめぇの仕業だったのか・・・・」
「うーん、さすがのシズちゃんでも気づいたか。というか、普通の人だったらもっと早くに気づくはずなんだけどね。ほんと愚鈍だよね、君って」
それよりも、と臨也は続ける。
「どう?独りぼっちになった気分は?」
俺が黙ったままで抵抗しないのに気をよくしたのか、臨也はいつもの罵りの言葉を投げつけている。化け物が愛されるわけないだとか、お決まりの言葉だ。聞き飽きた台詞。
ねぇ、シズちゃん。
声色が変わる。ずっと見てきたから分かる。これは相手を陥落させる時に臨也の使う手だ。外堀を埋めて、好む好まざるに関わらず、臨也に頼らざるを得なくするお得意の手。反吐が出る。
「俺のことが憎いでしょ?殺したいほどにね。」
そう言いながらこちらに近づいてくる臨也の真意が読めず、眉間の皺を深くする。
今更こいつが俺に何を要求するというのか。何を要求しようが、俺がこいつに従うわけなどないことは承知の筈だ。その上で、臨也は俺に何かをさせようとしている。
「だったら俺のことだけ見ててよ。他のことに気を向けて、俺への憎しみを薄れさせるなんて許さない。」
予想外の台詞に、俺は目を丸くして臨也を見る。顔こそ笑ったままだが、その目は真剣そのものだ。ああ、何を言っているのだろうこの男は。この男は散々ひとのことを理解できないなどと言っているが、俺にしてみればこいつの方がよっぽど理解の範疇を超えている。
俺の反応をどう受け取ったのかは分からないが、相変わらず笑っていない目で臨也は続ける。
「俺は君との関係を抹消したりなんかしないよ。どんな形であれ、ね。」
それは、ひどく魅力的な甘言だったのかもしれない。俺以外の人間にとっては。