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ありえねぇ !! 5話目 後編

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《……静雄さぁぁぁん………。ここ、何処?》

静雄は青い携帯を持っていて、セルティも黒い携帯を持ち歩いている。
だが、彼らに直通でかかる番号を……しかもメルアドを知らなければ、帝人が助けを求めるのは絶望的。

文明の発達は、時に無情だ。

帝人の首幽霊が知っている、静雄やセルティの住処は池袋である。
えぐえぐと涙ぐみながら、首幽霊は心細さに胸を痛めつつ、正しい現地住所を把握しようと、電柱と案内地図を捜し始めた。




★☆★☆★


もし帝人の首幽霊が、もう少し長くこのトラックに乗っていたら、そのトラックが池袋のマンションから新宿のマンションへと、結構短い距離を、ただ荷物を運ぶだけで往復しているのだと、賢い彼なら気がついただろう。


だが、偶然の機会は永遠に失われた。
実は同じトラックの荷台で、クローゼットの中で心地よく、くうくう惰眠を貪っていた首無し幽霊は、みゃあみゃあと煩く喚く独尊丸の尋常でない泣き声に、びっくりして飛び起きた。


(何? 何なの?!)


クローゼットを開けて這い出してみると、積まれたダンボールが崩れ、ついでに猫のゲージを吹き飛ばし、なんと独尊丸が吹き曝しの、申し訳程度にブルーシートで覆われたトラックの荷台で、ふるふる震えながら縮こまっているではないか。

(わあああああああ!! 動物虐待!!)

一体、どういう手違いがあったのか?
多分、引越しセンターのスタッフの、忙しさと人手不足にトラック不足に疲労困憊が確実に原因なのだろうが、幽の愛猫の危機に、帝人の首幽霊はずもずもと身に纏う影を、手に厚くして飛び出した。

そして、震える仔猫を、己の胸にしっかりと抱きしめる。
(もう大丈夫だからね。もう心配要らないからね!!)

がくがくに震える仔猫に、声を掛けてやれないわが身が恨めしい。
それにこんなに怯えた子を、再び孤独なゲージに放り込むなんてできなくて。
しかもトラックの荷台では、風が酷くて独尊丸が可哀想すぎる。

猫も今回、余程暴れたようだ。
ダンボールが荷崩れを起こし、 蓋が開いてしまった箱の中身が飛び出した上、独尊丸が引っ掻き回したのだろうか、お風呂場に備え付けてあったフェイスタオルが沢山乱舞している。

首なし幽霊にもし口があったら……、大きく溜息を零していただろう。
帝人は猫を腕に抱えつつ、もそもそとダンボールの中へとタオルをぎゅうぎゅうに詰めだした。
洗濯をしなければならないが、どれもこれもブランド品のとても使いやすそうな高級品ばかりだ。
小学校から離れで生活し、ひたすら貧乏街道を満喫してきた帝人にとって、一枚たりとも無駄にしてたまるかというぐらい、大切な幽の所有物である。

だが今トラックを運転している男は、正臣や静雄がもしこの場にいたら「てめぇ、その面ちょっと貸せ!!」と、怒鳴り散らしていただろう程、酷く乱暴な運転をする人だった。
今度は右折の際、また急ブレーキを踏みながら、ハンドルを景気良くぐりぐりっと回しやがる。

(…ふ、ふえ!?)

となると、縦に長い帝人の首幽霊のバランスがモロに崩れ、遠心力の法則に従い、仔猫を腕に抱いたまま、ごろごろと荷台の端まで転がっていく。
だがたった五十センチのストッパーは無意味だった。
もともと重さの無いミカドと、軽い仔猫の組み合わせは最悪で、ぽろっと二人は空へと投げ出されてしまったのだ。

(は? いや……、嘘ぉぉぉぉぉ!!)


独尊丸だけは、絶対に死守しようと心に決め、猫を胸にぎゅっと抱きしめたまま、幽霊は背中からまともにアスファルトから落ちた。
強く体を打ったため、暫くの間、痛くてまともに動けやしない。

幸い、投げ出されたのが道の片隅で、しかも歩道だった為、後続車両に轢かれる事は無かったけど、傷みを堪えながら自分達をここまで乗せてきたトラックを捜すが、それはもうとっくの昔に姿を消していた。


呆然自失とはきっと、今の自分の事を言う。
どうしよう? どうしたらいい?
自分は、今まで住んで居たマンションの住所も知らない。
勿論、今から行く予定だった、引越し先だって判らない。
今の自分が持つ全ては、独尊丸と幽がくれたPDAだけだ。

(……うう、幽さん……)

絶望に、暗くなった空を見上げると、美しい幽の巨大な顔が映っている。
タキシードを着て、チョコレートを齧りながら無表情で見下ろす彼……、製菓会社の広告宣伝用の看板だ。

そうだ、今は泣いたりいじけている場合ではない。
大恩ある彼の為、自分は、腕の中にいる独尊丸を守り、彼に無事届ける使命を得たのだから。


この東京は、情報を得る手段ならいくらでもある。
しかも幽は超有名な芸能人。
最悪、彼の所属するプロダクションの事務所までたどり着ければ何とかなるし、調べる手段もインターネットさえあれば、自分なら一発だ。

でも。
腕の中で「なーお」と可愛く鳴く独尊丸。
離したら最後、今度はこの仔とはぐれてしまうかもしれない。
それに、もし誰かが今の自分達を見たら!!

【恐怖 宙を浮く仔猫!?】
【羽島幽平の愛猫は、実は化け猫だった!?】

そんな三面記事の見出しを思い浮かべるだけで、血がすうっと抜け、青くなるような思いだ。
ずもずもと影を増殖させ、黒い風呂敷のように引き伸ばすと、すっぽりと腕の中の独尊丸を覆い隠してみる。

影のタオルケットは案外気に入ったようで、人の気もしらない猫は直ぐにすやすやと眠りだした。
けれど、帝人の首幽霊の前途は暗く、安らぎとは程遠い所にあった。