紡がれし絆
この謎なオーナー、鷹乃爪太郎を見ながら考えていたときである。部屋の扉が開いたのは。
「琥流栖ちゃん・・・・。その人は・・・・?」
グリスは首をかしげて言った。
「はぁ、はぁ・・・・・・・・この人は・・・・・グリスさんと一緒に演奏する人です。」
クレスは息を整えながら目を見開いた。
「・・・・ちょっと待て、私はお荷物抱えながら演奏するとは聞いてないぞ・・・・・!」
「お荷物じゃないよ・・・・!グリスさんは・・・・・・・。」
琥流栖はしっかりとクレスを見つめて行った。その目の脛さに思わず気圧される。だが、クレスは負けじと言った。
「その証拠はあるのか。証拠もなしに物事を決めつけるのか貴様は・・・・・!」
「証拠なら・・・・・あるよ・・・・・・!」
琥流栖はグリスに顔を向けた。
「グリスさん・・・・・ピアノ・・・・弾いていただけますか・・・・?」
「あ・・・はい、わかりました・・・。」
やがて、ピアノの旋律が響き始める。軽いようで、だからと言って消えるような軽さを持っているわけではない音。海の底にいるような気分にさせるような音で。常に守ってくれるような気にさせる音だった。
琥流栖は再びクレスに顔を向けて行った。
「少なくとも・・・・・グリスさんはクレスさんの背中・・・・は、守れるくらいうまいよ・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・。」
クレスはしばらく無言だったが、やがて舞台に向かっていった。やがてグリスのそばにやってきて「おい、そこの前髪の長い奴」と言って話しかけてきた。
「ふぇ・・・・・・それって僕のことですか?」
「お前以外にだれがいる・・・・それともその目は飾りか?」
グリスは少し心外な、とでも言いたげな雰囲気で抗議した。
「ち・・・違います、飾りじゃないですよ・・・・。そりゃ、視力はお世辞にもいいとは言い難いですけど・・・・。」
グリスは少ししょんぼりしたしていたが、クレスは意にも介さない様子でグリスに行った。
「・・・・・お前とセッションを組ませてもらう。」
「え・・・・・・?」
クレスは再びこう言った。
「勘違いするな・・・・・。別にお前と一緒に弾きたいと思って言ってるんじゃない。・・・お前の演奏があまりにも頼りないからお前はバックに回っていろと言ってるだけだ。」
「・・・・・。」
クレスは眉をひそめた。
「なんだ・・・・不満か。」
「い・・・いいえ。うれしいです・・・・!」
音があれば『パアァッ』という音がふさわしいくらいの笑みをグリスは浮かべた。
「僕、一人で演奏するより、誰かと演奏するほうが好きなんで・・・・。よろしくお願いします!」
「・・・・・・・ふん。」
クレスはそっぽを向けたが顔を少し赤らめていた。琥流栖はその様子を見ていた。
(あ・・・・・・・。)
なんだかこの人たち仲良くなるかな・・・・?
なってくれたらいいな・・・・。
楽太郎もその様子を見ていた。
(いい雰囲気じゃーん・・・・。)
「おいおーい、意地はってないでお互い仲良くしたらどうだ―?クレス姫ー?」
クレスは顔を皿に赤くして返した。
「誰が姫だ!貴様は何度言っても学習しないのだな!」
「さぁさぁ、自己紹介自己紹介w」
グリスは自己紹介と言われ、少し緊張気味に自己紹介を始めた。
「僕はグリスです。グリス=ベルナール=シャルロ=ブランシャール。」
「・・・・・・・。」
クレスはこれ以上何か言っても無駄だと悟ったので、自身も自己紹介を始めた。
「・・・・私はクレスだ。くれぐれも足を引っ張ってくれるなよ。」
「はい、頑張ります!」
「・・・・・・・。」
この男も自分より図体だけではなく年も上のはずだ。なのになんでこんな頼りなげなんだ。
(・・・・・・この男も琥流栖と同じ人種なのだろうか・・・・・?)
何となくだが、クレスはグリスと琥流栖に同じ匂いのようなものを感じたのだった。騙されやすそうなところと、頼りなさそうなところ、そして、今まで会ってきた人にはあまり持ってないような暖かさが。
(やれやれ・・・・・。)
お人よしの周りにはお人よしが集まるのだろうか。
「?」
「いや、なんでもない・・・・・・。」
クレスは一人ごちた後、舞台の真中あたりに立った。
「・・・・・いくぞ・・・・・・。」
旋律が響き始める。だが、この旋律は琥流栖が前聞いたものとは違う。誰かに合わせようとしている旋律だ。
「・・・・・・・。」
「・・・・・違う・・・・前聞いた感じと違う・・・・・・。」
クレスがあの時弾いていた曲と違う。もっとのびのびしていて、自分の感情が出ていた。
「・・・・・・・・クレスさん・・・・・どうして・・・・・。」
グリスもそのあたりは気付いたようだ。ピアノを止めた。クレスは止められたので振り返った。
「・・・・・なぜ、止める・・・・・。」
「・・・・・・・・本当にそれが弾きたい曲なの?」
クレスは眉をひそめて言った。
「言ったはずだ・・・・お前が頼りないから前に立っているんだ。」
「僕じゃそんなに・・・・・頼りないですか・・・・?」
グリスはうつむいた。爪太郎は一部始終を見ていたが、やがて口をあけた。
「嘘だね。」
「・・・・・・何?」
「お前、緊張してるだろ?」
「・・・・…緊張などしてない。素人が口を出すな。」
「ならなんで人様に会わせるような弾き方してんだ。素人のうちでもわかるぞ。それとも自分が拒絶されるのがそんなに怖いのか。」
「・・・・・・!」
その言葉を聞いて少しクレスは気分を害したようだ。バイオリンの持ち直すと爪太郎に向かって言った。
「・・・・・、素人のくせに言ったそのセリフ・・・・・後悔させてやる。」
「その意気で行け。グリスもお前をしっかりサポートしてくれるよ。」
そういうなり『じゃ、私は厨房の仕事続けるから』といい、そのまま厨房に戻っていた。
「・・・・・・。」
琥流栖はぼそっとつぶやいた。
「あのとき見たいに、楽しく弾けばいいんだよ・・・・。」
「え・・・?」
「あのとき見たいに・・・・・・心から楽しいって思えるような・・・。自分の気持ちに嘘偽りないような・・・・そんな曲だから、私、又聞きたいと思ったの・・・・・。」
グリスは少し苦笑した。
「クレスさん・・・・意外と爪太郎さんの言う通りだったのかもしれませんよ・・・?」
「な・・・・・・!」
「僕は楽しいから好きですけど、セッションで失敗すると思うと逆に緊張しちゃう人、いるみたいですから^^」
クレスは押し黙った。緊張しているということは事実だったからだ。そんな状態で弾いてもいいのだろうか。とても不安なのだ。
すると、グリスがふわふわしながらも助け船を出した。
「大丈夫ですよ~・・・・・。僕だって一応ピアノはそれなりにできますから・・・・。いざという時はちゃんとカバーします~。」
琥流栖が続ける。