双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】
久しぶりに会う親友は見た目は変わっていたが中身はそのままなようで安心して隣に立つことができた。
正臣に街を案内してもらいながら昨日のチャットで話したことを思い出す。
街の案内など自分がその役をしたいと臨也に食い下がられた。
そりゃあもう。
だが、あちらは社会人、少しお茶をしたりするならともかく一日べったりは不味いだろう。
文句を言う臨也をクロムや甘楽が抑えたり煽ったりなだめたりして昨日のチャットは終わった。
明日会うことになっているのだが怒っているのだろうかと帝人は不安になる。
「え?」
飛んでいた思考が今まさに考えていた人の名前で現実に戻る。
「オリハライザヤ・・・・・・?」
「あぁ、変わった名前だろ? お前も大概だけど」
今はそう『絶対に手を出してはいけない人間』そんな話題だったはずだ。
「その人って」
「こいつは本当にヤバいから絶対近寄るな。まあ、新宿主体の人だからまず会わねえだろうが」
などと正臣の言葉は帝人の中でぐるぐる回る。
(明日会うんだけど)
そう思いながらも同姓同名の別人の可能性を考える。
だが、折原臨也などという名前がそうそうあるものだろうか。
帝人が何か口にしようとする前に「ダラーズ」と正臣が呟く。
「ダラーズ、俺も詳しいことはわかんねえけどカラーギャングらしいんだけど、どんな色なのかも分からねえ」
「へえ」
二人の間に奇妙な沈黙が落ちる。
そのまま歩きながら帝人は臨也のことを考える。
(正臣に、聞ける雰囲気でもないなあ)
臨也のことを語った正臣の様子からしてよく思っていないのは明白で少し淋しい気分になる。
そして、帝人は都市伝説を目の当たりする。
チャットルーム(深夜)
田中太郎さんが入室されました。
【こんばんわー】
[ばんわー]
【セットンさん。今日、見ましたよ!】
【例の黒バイク!】
[? 田中太郎さん、池袋に来たの?]
【ええ、実は今日から池袋に住むことになりまして】
[へえ、おめでとうー。一人暮らし?]
【はい】
【知人にルームシェアを持ちかけられてはいますけど】
[そうなんだー。・・・・・・黒バイクって夜の七時頃?]
【あ、知ってるんですか?】
[うん、まあ。私もそこにいたから]
【!? 知らない内に擦れ違ってたかもしれませんね!】
[そうかも。ともあれ池袋へようこそー。何か聞きたいことがあれば遠慮なく聞いていいっすよー]
【ありがとうございます!】
【あの、早速ですが】
[はいはい]
【オリハライザヤって人、知ってます?】
【なんか友達に聞いて、近づかない方がいいって言われたんですが】
[・・・・・・田中太郎さんの友達ってその筋の人?]
【あ、いえ。普通の奴ですよ】
[あ、そうですか。すみません。折原臨也には関わらない方がいいよー。マジでヤバいっす]
【・・・・・・】
【イザヤって臨也って書くんですか】
[あぁ、珍しいですよね]
《あー! 太郎さんこんばんわー!》
【!? 甘楽さんいたんですか?】
《ちょっと電話してたからー。ごめんねー》
【いえいえ】
《今ログ読みましたけど東京に来たんですね? おめでとうございますー!》
【ありがとうございます】
内緒モード【・・・・・・甘楽さん】
内緒モード《うーん。火のないところでも煙は立つしねえ》
内緒モード【ってことは、やっぱり】
内緒モード《甘楽ちゃんとしては明言できないなあー。イザやんに怒られちゃう☆》
内緒モード【リアルで知り合いなんですよね?】
内緒モード《そこまで深くないですよー。時々勝手に音信不通ですし》
内緒モード【忙しそうですからねー】
内緒モード《約束破っても平気な顔してそうで、もうプンプンですよお》
[すみません。用事があるんで、今晩はこれで!]
内緒モード【そんなことないですよ】
【セットンさん、お休みなさい】
[おやすー]
《お疲れさまですー》
内緒モード《まあ、気になることは本人に聞くのが一番かもしれませんよー?》
セットンさんは退室されました。
内緒モード【そうですね、実は明日、会う約束してるんです】
内緒モード《へえ、羨ましい。甘楽妬いちゃうっ》
内緒モード【あはは。いつかオフ会とかしたいですね】
内緒モード《お洋服、買いに行かなきゃっ》
【すみません。私も明日早いので今日はこの辺でー】
《お疲れさまでっす!》
【ではではー】
《おやすみなさーい☆》
田中太郎さんが退室されました。
甘楽さんが退室されました。
作品名:双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】 作家名:浬@