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双方向インプリンティング【僕にとっての貴方】

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 臨也と帝人が面と向かって会うのは実に五年ぶりである。
 親戚であるとはいえ冠婚葬祭の席以外で二人は顔をあわせない。
 帝人の年齢が上がるにつれて帝人を残して両親だけで行くことが多くなったからだ。
 そういえば寝ている内に移動していたので埼玉の外に出ていたのか県内だったのかも分からない。
 いつも似たような場所で似たようなことをしていた。
 服が白いか黒いかの違いといっては失礼だが幼い帝人には結婚式も葬式も同じようなものだった。
 周りの雰囲気は違っていても臨也はいつでも変わりない。変わらなく帝人に接する。間の期間が一ヶ月でも一年でも同じだ。
 そうは思っても帝人はやっぱり緊張する。繰り返すが五年ぶりで相手は七つ年上の大人のお兄さんである。
 チャットと面と向かって会うのは少し勝手が違う。
 昨日のことを思い出して、外見が変わっていても正臣は正臣だったわけだから臨也も臨也だろうと帝人は首を振る。
 そのタイミングを見越したように後ろから両肩に手を置かれ、帝人は反射的に逃げるように身体を動かす。
 驚きながら彼のやりそうなことだとも思った。
 親戚のお兄さんは年上にもかかわらず帝人のビックリした顔が好きだと意地悪なことを言うのだ。
「池袋へようこそ。帝人君。・・・・・・待たせたかな?」
「いま来たところです。お久しぶりです」
 耳元での囁きはこそばゆかった。帝人は少し距離をとり頭を下げる。
 礼儀正しいその姿に目を細めた臨也は一瞬後、不満そうに口を尖らせた。
 変に子供っぽい臨也の仕草は緊張していた帝人の心はわずかに軽くなる。
 親戚だとはいえ、十人が十人中振り返るだろう眉目秀麗なその容姿、並ぶとやっぱり気後れするのだ。
「あの、折原さん」
「・・・・・・何それ」
 不機嫌絶好調な声に帝人は目を見開く。
 どのあたりが失言がわからず首を傾げる。
「お兄ちゃん、でしょ! 帝人君ってば、よそよそしいっ。よそよそしすぎる。もっとこう! 感動の再会みたいに抱きついてきて全然いいのにっ」
 こういうところは甘楽と似たノリだと帝人は思う。類友なのだろう。
「臨也さんはやっぱり臨也さんですね」
 肩をすくめて帝人は歩き出す。
 目的などないが臨也の容姿のせいか人通りの多い場所は視線が痛い。
「俺はいつだって俺だよ? なに? もしかして、久しぶりに会ってナマの俺の色香にドキドキ胸きゅん?」
「痛々しい発言を垂れ流すのは自重してください。大人なんですから」
「これから、どうする? 池袋巡り? うち来る?」
 遠ざかった改札を指さす臨也に首を振る。
 新宿はいずれ行きたいがわざわざ臨也が池袋に出てきてくれたのだ。
 一緒にこの街を歩きたいと帝人は思った。
 自分が暮らすことになる街を優しい兄と一緒に。



 まずは喫茶店に入ろうと臨也に連れて行かれたお店は客層が女性に偏っていて帝人たちは浮いていた。
 そんなことを気にもしない臨也は窓の外の人の流れをニヤニヤ見ている。
 臨也はどこにいても堂々と己を曲げることをしない。自分がパフェを食べたかったのか帝人に食べさせたかったのかは知らないが店の雰囲気など考えない。
 正しいのか間違っているのか知らないが臨也が居ずらそうにしないから帝人も開き直ってパフェをほおばる。
「あの臨也さん」
「なに?」
 好青年としかいえない爽やかな笑みは一瞬後には形容しがたい感情をはらむ。
 恥ずかしいほどの熱視線を帝人は受け流し、甘楽には聞き辛かった疑問を口にする。
「風評、ものすごい悪いですか?」
「・・・・・・、・・・・・・。直球だね。さすが俺の帝人君だよ」
 大げさな動作で「予想が~い」と天井をあおぎ見る二十三歳に若干帝人は冷たい目になりながらため息をつく。
「関わっちゃいけない人として名前を挙げられてましたけど・・・・・・」
「関わるなって、そりゃ無理な話だよね? 俺と帝人君の絆は切っても切れない無重力合金な鉄線だ」
「ツッコミませんよ。・・・・・・最初は同姓同名がいるのかと思ったんですけれど、やっぱり臨也さんですか」
「君にそう言ったのは紀田正臣君かな?」
「正臣に何したんですか」
 直球に帝人はたずねる。正臣の気のせいということも考えたのだが臨也の口振りではそれもない。
 あとでこっそり甘楽に聞くよりは今ここで臨也本人から聞いてしまった方がいい。そう思った。
「うん、なんというか言い辛いだけど」
 臨也が少しだけ表情を曇らせて口を開く。
「俺がボランティアしてるって前、話しただろう?」
「・・・・・・人の相談に乗っているっていうアレですか?」
「うん、そう。色々と端折るけど彼との関係はそんな感じ」
 苦笑いで言う臨也を帝人はまっすぐ見つめる。
 臨也が嘘を言っているようには見えないが帝人の中で何やらひっかかる。
「臨也さんに相談して事態が好転しなかったからって正臣が臨也さんのせいにして臨也さんを嫌ったりしませんよ」
 それに正臣が臨也を語ったときの顔が帝人には行き違いによるものとは思えなかった。
 セットンのこともある。池袋や新宿で名前があがる人間に臨也がなっている理由は容姿ではないだろう。
「・・・・・・相談に乗っていたのは正臣君じゃなくてその彼女の方でね」
 言葉を選ぶように思案顔の臨也に帝人は自分がこの話を聞き続けるべきか少しだけ迷う。
 正臣のプライベートなことを暴きたいわけではない。
 親友が親戚を悪く言っている図が苦しかったのだ。
 よく知りもしないのにと思う癖にでは自分は臨也を知っているのだろうかと帝人は疑問を抱く。
「彼女と正臣君を取り持つような形で彼とは面識があるんだ。不幸な事故で相思相愛な二人に溝ができてしまってね。まだお互いとも想い合ってて、でも向き合えないでいる。俺を見たり関わったりすると彼女のことを思ってつらいみたい。でも、時間が解決するよ。・・・・・・本当にお似合いの二人だから」
 臨也の言葉に色恋に疎い帝人はピンと来ない。
 正臣の臨也に対する言い方がそんな内容には聞こえなかったこともある。
「・・・・・・その不幸な事故とやらを臨也さんが起こしたとかでもなければ正臣が臨也さんをあんな風に言わないと思うんですけど」
 帰り際にもう一度だけ帝人は正臣にオリハライザヤについてたずねた。
『五秒ごとに信念が変わる、不安定さ。吐き気がする。折原臨也と平和島静雄、こいつらには絶対関わるな。それだけは覚えとけ』
 出てきた言葉は帝人の中の臨也の像とまるで違う。
 臨也はずっと変わらない。優しかったり意地悪だったりしても正臣がいうような「不安定さ」を帝人は感じたことがない。
 声を落として臨也は話す。
「まぁ、結果的に俺のせいかな」
「え?」
「言っただろう? 彼女の相談に乗って俺が助言していたんだ。二人の間に溝ではなく絆を取り持つためだったんだけれど、裏目に出てね。正臣君は俺を責めはしなかったけど八つ当たりしたい気持ちは仕方がない。彼女を忘れるためにナンパに明け暮れているみたいだけど、やっぱり彼は一途だね。彼女を愛している」
 帝人に微笑む臨也は少しだけ悲しげに見える。俯いた顔に影がかかっているからだろうか。