やっちゃった
「ほっそいよねぇ帝人君てさぁ、ちょっとは太らないとまずいんじゃないのぉ健康的な感じでぇ」
「語尾が伸びてるのがすごく気持ち悪いんですけど臨也さん、というか手、手を」
「手が・・・・」
ここで臨也は少し息を吸った。今まで培ってきた情報屋としての経験、興味本位でものにしてきた女性たちとの経験、人生のすべてを総動員させて、喉に息を通す。
呼吸をためて、帝人の耳元に唇を寄せる。全身全霊の力を込めて
「手が、なに?」
(さぁオチろ!この俺の渾身のイケボイス!!)
バッと耳を押さえて帝人が後ずさる。
顔からその耳まで赤く染まっている姿をみて、臨也は自信満々に微笑んだ。
(ちょっ低音禁止!くそぅ性格にさえ目をつぶれば完璧なんだよこの人ムカつく!本気でムカつく!!)
こんな反応をしてしまった自分が恨めしい。どや顔で見てくる臨也も腹がたつ。
でもカッコいい、なんて考えてしまう自分が一番腹立たしい。
混乱している帝人に、今だとばかりに臨也は再度体を寄せて畳み掛けるように話しかける。
「人間ってさ、一つの欲求が満たされたらすぐ次の欲求を満たしたくなるもんなんだよね・・・つまり、」
「睡眠欲ですね!?わかりました、臨也さん。僕は今すぐ家に帰ります。ゆっくり眠ってくださいおひとりで!」
涙目になって誤魔化そうとする姿が、捕食される兎のようで愛らしい。
じりじりと距離を詰めていけば帝人もどんどん後ろへ下がっていく。
「なぁに言ってるの。帝人君呼ぶ前にばっちり眠ってきたからどっちかというとすっげぇ目冴えてるんだよね。はーい、ここで食欲が満たされました、はいお次は?」
とん、と帝人の背中が壁にぶつかった。それに絶望的な表情を浮かべる。
追い詰めた喜びに口角をあげながら臨也は脇腹から細い腰を掴むようにして服の中に手を突っ込んだ。
そろそろ寒い季節だというのにシャツ1枚しか着ていなかったようで、あっさりと素肌に手が触れる。
(帝人君の肌!帝人君の肌!!すべすべ!つるつる!やーらかくて気持ちいい!!)
頭の中が残念なんことになっていたが、それ以上に混乱中なのが帝人だ。
臨也の手を押し返そうと必死に服を押さえる。大体どうしてこんなことになっているのか理解できない。
「なっ、ちょ、離してください手、服、やめっ!」
(なんでなんでどうして!?え、そんな雰囲気だったっけ!?っていうかこの人の頭の中はコレしかないの!?どうせ誰でもいいくせに!)
ボロリと涙がこぼれた。
驚きと悔しさで溢れたそれを、臨也の唇が吸い取っていく。
まるで恋人のようなしぐさに痛む心を押さえながら「もうやだ・・っ」と涙交じりに小声で叫ぶ。
「どうして?君だってほら、もう熱くなって・・・・」
腹のあたりを撫でる。が、その温度に(あれ?)と首を傾げた。
酒を飲んでいた割には平常温度程度のような気がする。うえに、帝人のこちらをにらんでくる目は涙にぬれてはいるもののとても鋭く、酔っているようにはまるで見えない。
スッと臨也の顔から血の気が引いた。
(あれ・・・?そういえば俺帝人君のグラスどうしたっけ?何杯飲ませた?あれ?・・・しまっ、注いでくれるのに嬉しくなりすぎてチェックして・・っ!)
「・・・ない?」
「ないですよ!」
「・・・酔ったりとか」
「ないですよ!!!大体ウーロン茶で酔えるはずが・・・っ、まさかあれ!?」
どんっと力強く臨也の体を両手で突き飛ばす。
「うわっ」と小さく声を上げながら尻餅をつく臨也を完全に無視して、テーブルに乗ったままの自分のグラスを掴んだ。
一口飲み込んで、ウーロン茶の中に感じる苦味にきりきりと眉を吊り上げる。
「うわ、お酒入ってますねこれ!?ウーロンハイ!?」
先程までは可愛らしく頬を染めていたはずが、今度は怒りで赤くなっていく。
完全にお怒りになってしまったその顔をみて、臨也も覚悟を決めた。
「・・・・・・・いろいろ、言い訳、させてもらえる?」
「何あぐらかいてんですか、正座しろよこのいい年したエロおやじが」