やっちゃった
反省のち、愛
正座を始めて早10分。沈黙が始まってからも10分。
無言のまま話し出すきっかけも作れず、ひたすら感覚のなくなっていく足に耐えていたが、いい加減会話をしなければ進まない。
「んー、ねぇ、帝人君。ちょぉっと俺足しびれてるかもなーなんて・・・」
口火をきった臨也に、少し首を傾げた帝人が近づく。
寄って来てくれたことに妙な感動を覚えた臨也だったが、次の瞬間床に昏倒する羽目になる。
「えい」
「いたたたた痛い痛いっ!!なにこの子ほんとドS!!」
情け容赦なく足を踏みつけられる。しびれた足をゲシゲシ蹴られて涙目になった。
とうとう正座を崩して床でびたんびたんと暴れる臨也をさらに蹴りつける。
「うるさいですよド変態が。ほら、正座崩さないでください。反省の色が見えませんよ」
「う・・・まぁ大人げなかったかなぁなんて考えてはいるんだよ?ほら、なんていうか、その、つまり・・・」
「溜まってたから適当に僕あたりで処理しようと思ったとかその辺でしょう」
冷たい瞳で睥睨する帝人を下から見つめて叫んだ。
「ちょっ!?その発想最低すぎる!俺さすがにそこまで酷くないよ!?」
その言葉に、はぁっと息を吐いて首を振る。
「セルティさんとか新羅さんとか門田さんとか正臣とかなら同じこと言いますよ。静雄さんなら発想の前に死ねって言うと思いますけど」
「あ、うん、それは俺もそう思う。ってそうじゃなくてさ!」
「大体僕じゃなくてもいっぱいいるんでしょう?そういう・・・女の人。その人たち呼べば、いいじゃないですか」
自分で言っていて悲しくなってくる。
大勢のうちの一人だということは理解していても、心が追い付かない。
臨也の顔を見ることができず、顔をそむけたその仕草と表情に、臨也はぱちりと瞬きをする。
もしかして、と前置きして口を開いた。
「・・・帝人君、妬いてるの?」
ぽつりと告げた言葉に、カァッと一気に帝人の頬が赤くなる。
とっさの反論ができずに、唇だけが開いては閉じてを繰り返す。その姿を見て臨也は思わず
「なにそれ可愛い!」
と絶叫した。
もともと自信家な男だ。折原臨也という男は。ここへきての帝人の所作にいいイメージがどんどん湧き上がってくる。
「寝言は寝てから言ってください。妬くとか、そんなわけないでしょう。臨也さんが最低なことも女の人を侍らしてることも知ってますよ。知ってるからそう言っただけで、何か特別な感情があるとか、そんなことあるはずないじゃないですか」
「図星突かれたら人間って雄弁になるものなんだよねー。なに、帝人君って俺のこと好きなの?」
ペラペラと話し始めた帝人に気分がよくなる。
(俺のこと好きだったらいい!めちゃくちゃいい!やばい今すぐ抱きしめたい!!)
が、今は足のせいで立ち上がることもできない。
転がったままの臨也を見ることができず、帝人はギリギリと歯噛みした。
(ちくしょう・・っ!こんなところでバレるわけには!っていうかやっぱりからかってきやがった臨也さんめ!予想通り最低だ!)
泣きそうになるのを必死にこらえる。
バレてからかわれる覚悟はしていたけれど、想像と現実の重みは違う。
やっぱり自分は臨也にとってその程度の存在なのだと思えば、ずきずきと胸が痛んだ。
あとで目一杯泣いて、それでこの恋を終わらせようと冷たい声を出す。
「臨也さんなんて好きじゃないです」
ぐっと唇を噛んで、これ以上話す気がないとばかりに顔をそむける帝人に、さっきまでのいい気分が一気に萎える。
(なにそれ。俺のこと好きじゃないとかさ、何言ってんの。好きでいてよ、俺が君のことこんなに愛してるんだから、帝人君だって俺のこと好きでいてよ!)
だって俺は、そこまで思って臨也の口が無意識に開いた。
「俺は好きなのに」
「は?」
「え?」