やっちゃった
そして帝人がベッドの上で泣きそうなのを我慢しているのと同時刻、リビングのソファで考える人状態になっている人物がいる。
折原臨也はかつてないほど動揺していた。
目覚めた瞬間はとても心地いいものだった――あぁ、いい夢みたなぁなんて思いながら起きたのだ。
そして隣を見て、髪の毛が逆立つかと思うほど仰天した。
(やっちゃった・・・!お酒の勢いでやっちゃった・・・っ!!どどどどうしようこれで嫌われたら俺はジャンピング土下座だってできるっていうか帝人君可愛かった・・・っ!!!)
深刻な表情がでろでろに溶けていく。
そう、折原臨也は帝人と出会ったその瞬間から
(可愛い帝人君可愛いぃぃああぁぁ帝人ラァァァブッ!!)
と脳内絶叫するほどには、帝人のことが好きだった。
いや、現在進行形で愛している。
少年らしい気の強そうな瞳や、他の同年代の人間と比べても細くたおやかな肢体も、慣れてくれば毒舌なところもすべてが愛らしかった。
一番気に入ったのは、予想通りに動いてくれる部分と、全く予想外の動きをすることのバランスだった。
まだまだ経験値が足りず言葉一つで簡単に転がってくれる時もあれば、堕ちたと思えば進化していたり、気が付けばボールペン片手に絶対零度の微笑みを浮かべていたり、これからどうなってくれるのか、一体自分に何を見せてくれるのかとドキドキわくわくさせられた。
いつしか「お気に入りの少年」というレッテルから、「ずっと見ていたい少年」へと移り変わり、その気持ちは「傍にいたい」へと進化していった。
ありとあらゆる帝人の表情が見たい、想いをぶつけられたい、心からの信頼が欲しい、愛が欲しい、帝人が欲しい・・・
が、さすがに男にそういう意味で手を出したことがないので、経験が乏しいと自分に感じていた。
(これが女なら簡単だ、いくらでも前例がある・・・けど、男の子の心を恋愛的に掴むにはどうすればいいのか・・・考えて考えて煮詰まって酒の力で手ぇ出すって俺は、俺ってやつは・・・っ!!)
脳内では「臨也さんってホントに誰でもいいんですね・・・心底軽蔑しました」と冷たい瞳で蔑む帝人の姿が見える。
「う゛あ゛あぁぁぁぁ」と頭を抱えて自分の想像に大きくバッテンをつける。
考えてこれが現実になったらどうするんだ。
(考えない、俺は考えないぞ。帝人君のことだ、きっと「手を出したのはそちらですからね、貸しですよ」とかって言ってくれる・・けど言わないかもしれない!帝人君だもの!あぁぁもうわからない!)
うめき声を上げながら頭をかきむしる。
足の長い絨毯の上にハラハラと数本細い髪の毛が落ちていくが、そんなことはどうでもいい。
やってしまったものは仕方ない。
もう酒は飲まないと心に誓いながらも、現在の状況からどうやっていい方向へ持っていくか、それを考えようと頭を回転させるけれど、考えれば考えるほど先ほどの冷たい瞳の帝人(想像)が頭から離れなくなっていく。
(とにかく下半身だらしない人間と思われるのは最悪だ。女に不自由してないアピール?どうしてあえて君を抱いたんでしょうみたいな・・?いや逆効果な気がする。あぁぁものは相談だから付き合おうって言いたかったのに!言い切ればよかった俺の意気地なしぃぃ!!)
カチリカチリと秒針を刻む時計の音がリビングに響く。
その音を意識して、リビングへ来てから・・いや寝室を出てから数分経ってしまっていることに気付く。
とりあえず帝人のために「こんなコーヒー初めて・・っ」と言わせるぐらいのコーヒーを淹れよう、とソファから腰を上げた。
ちなみに、動揺しすぎていたせいで帝人にシャツをかけるので精一杯だった。
ので、
「・・・いや・・・・先に服、着よう・・・」
真っ裸だった。