やっちゃった
「セルティ!手当終わったよー。まったく聞いてよ、臨也ってばさぁ」
「おい新羅余計なこと言うな!」
『やっぱり本人に聞いた方がいいんじゃないか?』
「えぇっ!?い、いえ!いいです!!本当にいいです勘弁してください!」
3人の声プラス1人の文字が一気に交わされる。
そんなにスペースが広すぎるわけでもないのに小走りでセルティのもとまで駆け寄ってきた新羅が、帝人の上ずった声とPDAの文字を見て朗らかに
「どしたのにぎやかだね?あぁそれで聞いてよセルティ。臨也ってば可愛い恋人が欲しいとかさぁ、軽佻浮薄な我が身を振り返るべきだよね!その辺私はいつだってセルティに一途だったわけで」
と両手を広げてアピールした。
それに対して臨也が「ぎゃぁっ!」と叫んだ。もしかしたら数センチ飛び跳ねたかもしれない。
「ちょっ、ちが、いや別に俺は恋人が欲しいとかそんなじゃなくて別に恋人には苦労してないっていうか苦労はさせたくないっていうか可愛いって思ってるだけで別にそんなんじゃないんだよ!!」
『よくわからないが・・・恋人自慢でもしてたのか。うるさかったぞ』
「・・・・」
慌てふためく臨也を見て、帝人の目は先ほどのキラキラしていたものから一変して淀んだ。
(やっぱり恋人には苦労してないんだな・・・可愛いって思ってる人いるんだ、臨也さん。あー、ほんとになんでやっちゃったんだろ。諦めきれなくなるだけじゃないか)
はぁ・・とこれ見よがしにため息をつく帝人に、気付かれない程度に臨也は身を固くする。
何を考えているのかわからない帝人の目が冷たく自分を見据えているのに、必死で頭を回転させる。怖すぎて視線を合わせられない。
(やばいやばいやばい不審がられてる!?っていうかすっごいじぃっと見られてるどうしよう頑張れ俺。いつもの格好良くて素敵で無敵な情報屋に今こそなるべきだ今すぐに!!さん、はいっ)
すぅっと息を吸って
「はは、帝人君には恋人なんて話は早かったかな?まだお子様だもんねー?」
にこやかで爽やかな笑顔を浮かべてしまった臨也に、一瞬瞠目した帝人がより一層冷たい目になって
「・・・そうですね、変な方向に進んじゃったこともありましたけど、とっくに記憶から放り出しましたし。僕も臨也さんみたいに可愛い恋人ゲットしたいですねー」
「えーなに羨ましいの?まぁ俺はモテるからね。寄ってくるものだから相手してあげてるっていうか、サービスだよサービス」
「あははは」
「ふふふ」
笑いあう2人の間に流れる切迫した空気。
きっと帝人が静雄と同じくらい感情を外に出すタイプだったら、容赦なくボールペンを突き刺していただろう。
その空気を全身で感じながら、
(まままままちがえたーーーっ!!!ちがう、そうじゃない!俺は君が可愛いと思ってるのであって、えーっ!?えぇーーっ!?)
と臨也は先週と同じように、今度は脳内で頭を抱えた。本当なら「あばばば」と意味もない言葉を言いながら床とお友達になりたいぐらいの心境だ。実際膝が細かく震えていたりする。
そんな臨也の心など当然知らず、
(ほらみろ、ほらみろ・・!!やっぱりそういうことする人たちが一杯いるんじゃないか!手出しておきながら、よくもぬけぬけと!知ってたけどサイテーだ!)
想像していた「もし同い年だったら」の映像を思いきりよく頭から追い出す。
ついでにあのやっちゃった事実も抹消できないものかと真剣に検討しながらも、理性とプライドによって帝人は表面は穏やかに笑い続けた。
ギリギリと拳を握りしめてしまうのは止められなかったが。
『なんだか2人の様子がおかしいな』
「そうだねぇ、ぎすぎすしてるし。もしかして仲悪かったのかい?」
『悪くはなかったはずだけど・・・』
後ろで巻き込まれたカップルがそんな会話をしていたが、誤魔化しあうので必死な2人は気付くこともなかった。